君とお揃いの晩夏

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「倒れていたそうじゃないか。君のマスター」

「……」

「それに、君もか」


 アーチャーがちらりと此方を見る。が、私は視線を交わらそうとせず、ただ屋根の上から冬木の地を見続ける。
 マスターの枯捺が倒れたのは知っている。……しかし、納得できないことがある。《眩創の魔術(ヒビロア)》を使ったところでエージェントである自分には無関係のはずだ。
 なのに……


―私の魔力が、吸い上げられた……?


 《眩創の魔術(ヒビロア)》には、そんな能力はないはずだ……



君とお揃いの晩夏 23
〜金色異端篇




「サーヴァントともあろうものが、敵と仲良しごっこか?」

「……」

「……」

 
 先ほどからずっとこの状態だ。私は思わず肩を竦めた。今頃この時代のもう1人の私……衛宮士郎は槇利枯捺に気持ちを吐露しているはずだ。抑えきれなかった欲望の断片。
 ……我ながら小心な時代だ。


「……《眩創の魔術(ヒビロア)》は、」

「?」

「魔力の根絶のみのはずです。魔術回路を一時凍結させることにより、辺り一帯の魔力を根絶するだけの礼装です……」


 知っている。
 私とて馬鹿ではない。《眩創の魔術(ヒビロア)》は魔力の根絶のみに長けた礼装。――それがどうかしたのだろうか。
 エージェントは浮かない顔のまま、自分の手を見る。


―……小さい、背中だな。


 同時に、叩いてしまったら折れそうなくらい、華奢な体格をしていた。







「……」


 もしも、枯捺の《眩創の魔術(ヒビロア)》は、まだ完全に操れていないとなると。多少厄介になる。
 誰と構わず魔力を絶たれては、同盟を組むマスター凛たちにも影響がある。……何か手立てはないものか。


――『マスター切継、これをどうぞ』

――『……なんだ、これは』


「……あ、」


 あった。あるではないか。魔力を制御する素敵アイテムが。――《鷹破り(トラフ)》が。


「そう、あれがあれば……」

「……何をぶつぶつ言っているんだ」

「え? ああ、お気になさらず」


 訝しげにアーチャーがこちらを見る。口に出ていたとは言え、企みまでは読めないだろう。……しかし、《鷹破り(トラフ)》は何処にあるのだろうか。
 最後に渡したのはマスター切継。……やはり、マスター士郎?だったら部屋に侵入……話せば分かるだろうか。


「……エージェント」

「はい?」

「衛宮士郎の部屋へ侵入しようなどと考えるなよ」

「え、?」


 あれ、バレてた。
 ……アーチャーは心を読む達人なのかもしれない。侮らない方がいい……!


「話せば分かるだろう」

「へ?」
 
「そういう男だ」


 訳が分からない。どうして、アーチャーは私の動向が分かるのだろう。それに、マスター士郎のことをよく分かっている……何故?


「(本人とは流石に言えんな……)」


 とりあえず、アーチャーに言われた通りマスター士郎に提言してみよう。


「……今行こうとするなよ」

「え!?」


 なんでこう行動がバレるのだろうか。私ってワンパターンだったのかもしれない。以後気を付けよう。


「(さすがに私の醜態を見せるわけにはいかない……!)」


 ……なんでアーチャーが苦い顔をするのだろうか。気になるが、多分アーチャーも何か思案を広げているんだろう。


「じゃあ、アーチャー」

「なんだ、エージェント」

「しばらく、お喋りしましょ」

「……病み上がりが。床にでも入っていろ、たわけ」


 不適に笑いながら、アーチャーは私の頭を指先で小突く。床にでも、とは言葉が違う気がする。……サーヴァントに入る床などあるのだろうか。


 

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