君とお揃いの晩夏
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※ギルガメッシュ独白
杯を満たす。黄金の杯を傾け、中に入っていた葡萄酒を飲み干す。
「今宵の酒は、また美味だな」
いや。とギルガメッシュは唇の端を妖艶に舐める。その目に、夕時会った少女を思い描きながら。
「全て、枯捺のお陰か」
君とお揃いの晩夏 24
〜金色異端篇
エンメバラゲシは滑稽な男であった。優しすぎるあまりに、自らの優しさに殺された。
『粋がるなよ、雑種』
エンメバラゲシの顔は既に記憶の彼方が良いところだ。エージェント――否、アルマの当時の表情は鮮明に瞼の裏に焼き付いている。
向けられる憎悪の眼差し。さながら山犬のようで嗤えた。
理解しがたい。常に王であった我に、雑種の考えなど理解できなかった。
それは今まで藁に触れたことがない者に、「これで草鞋を編んでほしい」と藁を渡すようなものだ。即座に理解などできないだろう? つまり、『そういうこと』であり、『ただそれ』でしかない。
『――ギルガメッシュ、不幸が降り積もると思え……! 呪われた我が身を呪うがいい!』
征服した占術士の老婆がそんなことを言った。我に刃向かう者はみな切り捨てた。暴君? 荒くれ者?――誉め言葉だ。どのような形であれ、国が存続するなら良しとしよう。
そんな感情も四散しかけた第五次聖杯戦争。メソポタミアの頃から因果関係にあったエージェントのマスター、槇利枯捺に出会った。
聞き留めた話によると、枯捺の父は第四次聖杯戦争で狂犬を召喚したマスターとな。
「……それは確かなのか、綺礼?」
意地悪く笑めば、綺礼は眉を寄せる。愚問と申したげだな。
「本人は知らないだろうが、確かだ」
「ふはははっ、愉快愉快!」
まさに因果応報、再び相まみえるとは。しかも魔術ができないマスターだと。……いや、それは有り得ない。
仮に魔術ができないマスターだとして、何故我の宝具が、魔力が、枯捺の前で消失した。吸収に近かったが、異常だ。
「……どうした、ギルガメシュ」
綺礼が訝しげに我を見る。全く、王を崇めぬ愚か者め。
「何でもない」
考えるのはまた後日というわけだ。
それより王たる1日を過ごさなくてはな。綺礼はそのまま扉から出て行く。さしずめ客が来たのであろう。
世の中不思議なものだ。偶像崇拝から神の信仰まで。さすがの我も理解に苦しむ。度し難い我が儘のようでひどく滑稽だ。
「……そういえば、」
綺礼の置いていった氷をグラスに入れながら、我は枯捺を思い出す。
―あのまま気絶したから公園まで運んだが……無事だろうか。
笑いそうになった。
何を馬鹿な心配を。
―しかし、
―枯捺だからこそ抱く感情。
強いてこの感情に色を付けるなら薄い紅色を使おう。中途半端だが、それでいて美しい色を。
冷酷や無関心とは程遠い。セイバーとはまた違う感情。
「……ふん、不思議なものだ」
グラスに葡萄酒の瓶を傾ける。
此度の葡萄酒は年代物であり、喉越し爽やかだとか。しかし、今はそれすら『どうでもいい』。途方ものない旅路のようで、苛立つばかりだ。
「我が、悩むなど徒労だな」
喉に葡萄酒を流し込む。
確かに、少しだけ爽やかであった。