君とお揃いの晩夏
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「おっ、おい、エージェント!?」
「はっ、……っ」
体内から噴き出るような熱。
熱に支配された身体は、引力の誘うままに倒れ込む。咄嗟にランサーはエージェントの身体を抱き止める。服越しから伝わる、異常な体温。
―おいおい、なんだこれ……! これは、魔力切れに近いんじゃねぇかよ……!?
君とお揃いの晩夏 22
〜金色異端篇
異常な体温。エージェントの体温は異常な上昇っぷりを見せた。おいおい、一体何があったんだよ。魔力が著しく消滅している。いや、現在進行形で消えている。
「おいおい、ちょっと待てよ……!」
思わずそう口に出た。
こいつのマスターに何かあったとしか思えない。てか魔力が吸い込まれてんじゃねぇのかこれ……!
辺りを見渡すが、通行人の陰どころか魔術師の陰もない。おい、これまじかよ……。まじでこいつのマスターに何かあったのか。
「……っち」
魔力供給しなきゃ、エージェントが消えちまう。……それだけは、俺は勘弁だ!!日々の楽しみが減るのは、くそ面白くねぇ。
「……エージェント」
「はっ、はっ……」
潤んだ瞳が俺を捉える。衰弱しきったサーヴァントが目の前にいるというのに、俺はこいつの命を奪おうと思えない。……つくづく、嫌になる。
「悪く、思うなよ」
熱のこもった唇に、俺の唇を重ねた。
手っ取り早い魔力供給。――くぐもった声が唇の端から漏れた。
「……ふっ、……サー……!」
「……。なんだ、気がついたのかよ?」
エージェントの顔色が徐々にいつものように血色の良いもの………を、通り越して怒気を含んでいた。断りは入れたんだ、俺は悪くねぇ!!
「覚悟してるか、この野郎……!」
「……すんませぐはっ!!!」
仮にも命の恩人に対してグーはねぇだろ、グーは。
○
「……申し訳ありません」
エージェントが伏し目がちに謝ってくる。俺は構わないと言いながら後頭部をさする。……眉間をグーで殴られ、更に後頭部を強打となると俺の運を疑う他がない。(さすが幸運Eとか笑うなよ!)
「それにしても、一体何があったんだよ」
「……分かりません」
分かってても言わねえくせに。
微妙な顔持ちのエージェントの頭を乱暴に撫でた。なんだよ、すごく柔らけぇな。
「ちょっ、!」
ばしんと叩(はた)かれたが、顔が赤い。恥ずかしいのかよ。
……なんて楽しんでいると、エージェントを遠くから呼ぶ声が聞こえる。これは……間違いねえ。初日にぶつかったアーチャーのマスターだ。
「悪い、俺帰るわ」
「はあ……」
立ち上がり、エージェントの方へ振り返り唇に触れた。
「また倒れたら、魔力供給してやるよ。さっきのやり方でな」
「っ! 馬鹿野郎っ、さっさと帰れ!」
顔を真っ赤にするあいつ。
本当飽きなくて済む。面白くて結構。
「……なんですか、あいつ……」
「エージェント!」
「マスター凛。如何なさいましたか」
「さっきアーチャーが枯捺を公園で見つけたのよ!!」
「……枯捺を……、?」
「なにぼさっとしてんのよ! さっさと行くわよ!」
凛に手を引かれ、エージェントは走っていく。声には出さないが、霊体化もしくは飛んだ方が早いんじゃないだろうか……。