君とお揃いの晩夏

□25
1ページ/1ページ



 “招来した英雄の縁のあるもの”
 例として。衛宮士郎は知らぬ内に体内にあった《全て遠き理想郷(アヴァロン)》がセイバーを喚び、遠坂凛は自らの宝石がアーチャーを喚んだ。
 しかし、エージェントは?
 偶々第四次に喚ばれた彼女の縁のあるもの、それは――――オニキス仕様の装飾品。衛宮士郎の持つものである。



君とお揃いの晩夏 25
〜金色異端篇




「……そ、そういえば、士郎!」


 先ほどまで抱き合っていたのが嘘みたいだ。枯捺はぽっぽぽっぽと湯気がでる頬を隠すように、布団を顔の前まで被せる。士郎も顔を逸らし、少し恥ずかしそうにそわそわしている。


「な、なんだ」


 士郎は枯捺を一瞥する。が、何処か目が泳ぐ。

 
「あ、あのね……」

「お、おう」

「士郎が持ってる、それ……」


 枯捺が指差した方向には、士郎のポケットからはみ出るオニキス仕様の装飾品が光っていた。


「士郎いつも大切そうに持ってるよね」

「ああ。……親父がくれたんだ」

「?」


 士郎はポケットからそれを取り出し、枯捺の近くまで持って行った。妖しく光るそれは、見目麗しく、どこか恐ろしくも思えた。


「“お前をいつも護ってくれる”、」


 士郎は嬉しそうに目を細める。


「……御守りみたいなもんだ」

「……素敵だね」


 枯捺の言葉に、士郎は目を見開き驚いた。御守りのどこが素敵なのだろうか、と思いつつ胸の奥が熱くなるのを感じた。


「お父さん、素敵な人だったんだね」

「……ああ」

「それに、」

「……?」


 少し恥ずかしそうに口ごもる枯捺。顔を紅くさせ、若干の上目遣い。士郎は胸がばくばくと早くなるのを、なんとかポーカーフェイスで隠した。

 
「士郎と話すきっかけも、その御守りだったね」

「……そうだったな」


 初めて話した日。
 前日、学校にある弓道場を清掃していた時に落としたのだ。どうして落としたんだよ、俺!と自責の念に駆られたくらいだ。――今となっては嬉しい誤算だったのだが。
 士郎は少しばかり、オニキス仕様の装飾品を見続けた。


―『これは、士郎。お前の護りたい人も護るものだ。……いつか、そんな人ができたら、あげるといい』


 士郎は一回宝石を握り締め、枯捺に差し出した。


「やるよ」

「え?」


 目をぱちくりと見開き、枯捺は士郎の顔を見る。少し真っ赤な顔が、何とも愛おしい。
 士郎は枯捺の柔らかい掌に触れ、装飾品を堅く握らせた。


「士郎、これ、お父さんのなんでしょ? 私なんかが貰って良いわけないよ」

「枯捺に、貰ってほしいんだ」


 士郎は真剣な面もちのまま、枯捺の掌をぎゅっと握りしめた。
 互いの体温が、更に互いの指先の冷たさを安易に知らせた。


「……士郎、緊張してる?」


 枯捺がにやにや笑いながら士郎を見ると、恥ずかしそうに、嬉しそうに笑う士郎の姿がそこにあった。


「まあな。……当然だろ」


 さては士郎のことだ。女性と二人きりはそうない体験なのだろうか。
 枯捺は複雑な表情をしながら、オニキス仕様の装飾品を受け取る。


「それをな、太陽に翳してみろよ」

「太陽に……?」


 言われるがまま太陽にあてると、それは美しく美しく輝いた。


「わあ………………ありがとう、士郎!」


 一生の宝物だと言わんばかりに、枯捺は士郎に貰った物を抱きしめる。

 ――…これから先、そのオニキス仕様の装飾品が勝負の命運を握るとは知らずに、枯捺はただ嬉しそうに抱き締めた。

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ