君とお揃いの晩夏
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「っちくしょう、やられた……っ!」
士郎は拳を握りしめ、荒々しく壁を殴った。手の甲から血が止め処なく流れ落ちるが、士郎にはそんな“些細なこと”を気にとめる暇などなかった。
走る。セイバーの呼び止めなど、聞いている間も惜しい。
「待ってろよ……っ、枯捺ッ!!」
魔力が荒々しくせめぎ合う、我が家へと駆け出した。
君とお揃いの晩夏 27
〜金色異端篇
―30分前
「……うん? あ、」
「シロウ、いかがなさいましたか?」
「いや、洗剤が切れたみたいで……」
参ったな、と士郎は頭を掻いた。優雅にお茶を飲んでいたセイバーは、「買いに行くのでしたら私も」と進言した。さすがの士郎も、手を前に出し左右に振った。
「あ゛ー、いや、いい。助かるんだけど、さすがにこの家を手薄にするのは」
「ならばご安心を」
「っおう!?」
いきなり背後から声が聞こえたと思い振り返ると、平然とした顔のエージェントが立っていた。さすがに、心臓に悪い。
「ここ数時間、マスターが寝ているおかげで体調も挽回しました」
「……まあ、そう、だろうけど……」
「マスター士郎、貴方はサーヴァントを舐めているでしょう」
呆れた声が士郎を威嚇する。
「私とてサーヴァントの端くれ。1対1なら負ける要素はありません。ましてや、生身の人間に」
「………………本当だな?」
「はい」
「本当の本当の本当の本当だな?」
「はい。ですからさっさと行ってきやがれこんちくしょうです」
「……」
遠坂もいないから心細いが……、まあ、いいか。ついでに夕飯の材料も買いたかったし。
士郎はエージェントの肩を持ち、「じゃあ任せた」と笑って見せた。そして、セイバーと共に出かけた。
この時点で、エージェントも士郎も予想していなかっただろう。……攻めてくるサーヴァントが、一体でないことを。
○
「ぅうーん……?」
枯捺は目を擦りながら起き上がった。どれほどの時間眠っていたのだろう。明け方からだから……今は太陽が高いから昼時だろう。枯捺は欠伸をもらしながら居間に移動した。
「おはこんにちふぁぁぁ……」
「おそよう、ですかね」
居間にはエージェントの姿しかなかった。枯捺はあれと小さく声を漏らし、居間一帯を見渡した。見慣れた顔が全員いない気が……。枯捺の不思議そうに居間一帯を見る目に気付いたのか、エージェントは急須のお茶をコップに淹れながら答えた。
「皆さんお出かけですよ。はい、どうぞ」
「お出かけ? あ、どもども」
枯捺はエージェントからお茶を受け取ると、そのままゆっくり飲んだ。
お茶の苦味が少なく、少し顔が綻んでしまった。
「そういえばさ、エージェント……、ッ!?」
それはいきなりのことであった。障子を突き破ってきた矛や槍、剣、鉾の嵐。咄嗟のことにエージェントは枯捺を俵抱きにし、隣の部屋へと移動した。
「あ、あれは!」
「くっ、」
枯捺が何かに気づいた声を上げるが、次いできた第二波に備えエージェントはどこからともなく短剣を一つ出し、朱い槍を受け止めた。
「……っ、なるほど、あなた方が手を組んでいたのは予想外です」
「はっ、そうだろうな。俺もお前ならそう思うだろう」
ひゅん、ひゅんと風を切る音が緊張感を更に高ぶらせる。
枯捺は俵抱きのまま、ゆっくりと振り返った。青い鎧の男の奥に、金色の鎧を纏う男。血の気が一気に引いた。
「ふざけないで頂きたいですね」
「ふざける? 俺がいつふざけた?」
青い鎧の男――ランサーが槍を深く構える。その奥には《王の財宝》を解き放とうとするギルガメッシュの姿があった。
「俺はいつでも――本気だ」
ランサーは枯捺たち向け走り出した。