君とお揃いの晩夏
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ランサーは走り出した。
そして、槍に魔力を注ぎ込んだ。来る、エージェントは瞬時に逃げ道を探した。が、出口にはランサー、その奥にはギルガメッシュ。左右後ろは壁。
――四面楚歌、てこの状況のことなんですかね……!
神様がいるなら叫んでやりたい。余計なことをするな!と。
君とお揃いの晩夏 28
〜金色異端篇
「《刺し穿つ死刺の槍》!!」
心臓を“絶対”貫くとされる大業。避ける策が見当たらない。エージェントは目を見開き、ぎりぎりの所を肩に逸らそうと思っていた。
――嫌だ、エージェントが怪我をするなんて……!
怪我で済むレベルではない。
枯捺は手に握りしめている士郎から貰い受けたオニキスの装飾品を握り締めた。堅く、堅く、固く、堅く。
――嫌だっ……!
友達が目の前で刺されるなど。
「だめっ!!」
その瞬間、彼女の中の魔術回路が反応した。オニキス――《鷹破り(トラフ)》に流れ込み、彼女の最大にして無敵の結界――《眩創の魔術(ヒビロア)》がその姿を現した。
目映い光。温かい光が辺り一帯を包み込んだ。
「っ!」
エージェントの肩に鮮血が舞う。しかし、それはゲイ・ボルグの威力を相殺しており、僅かな傷痕しかできなかった。
これには、ランサーも驚きの色を隠せなかった。
「――なるほどな」
今の今まで押し黙っていたギルガメッシュが、ふいに笑い出した。
ぞわっ、と背筋を何かが駆け巡る。
エージェントは背後に枯捺を下ろし、そのままギルガメッシュを睨んだ。
「……目的は、マスターですか」
「さすがエージェント。言わずとも理解してくれて話が早い」
ギルガメッシュの挑発的な物言いに、エージェントは今にも飛びかかりそうなほど殺気を放つ。
しかし、当の本人はと言うと、状況把握に急いでいた。
――つまり、ギルガメッシュとランサーさんは私を連れに来たんだ。なるほど……………………………………ん?
「……何で?」
枯捺はきょとんとした顔で三人を見渡した。それをランサーが苦笑気味に見る。
「嬢ちゃん、冷静なんだな。あの日より立派になったな」
ランサーがからからと笑う。あの日、とは大凡聖杯戦争初日のことを指しているのだろう。枯捺は「いやあ……」と微妙な声色で答えた。
「さすがは我の妃となる者だ」
「んごはっ!?」
「ぶっ!」
「え? 目的それ? 絶対違うよね?」
わなわなとランサーとエージェントが震える。平然と会話する枯捺に、ギルガメッシュはゆっくりと手を差し出した。それは、まるで恋人を待ち構える聖人のようにも見受けられる。
「否。我は貴様の力が欲しい。その魔力無効の能力……、今後の勝敗に影響するからな」
「魔力無効……」
枯捺は自らの掌を見る。《鷹破り》が汗に滲んでいる。と、同時に言い知れぬ不安に駆られる。
もしかしたら、自分はあの手を取ってしまうかもしれない。弱さを祟り、強さに縋ることを……、してしまうかもしれない。
「さあ、我と共に来い、枯捺」
唇が震える。答えは決まってるはずなのに、どう応えばいいのか躊躇ってしまう。
「わた、しは……」
士郎と居たい。
心がそう叫ぶ。士郎と一緒に居たい。離れたくない……!
ぎゅっ、と《鷹破り》を握りしめる。
「私は……!」
「行かない、よな」
ギルガメッシュの後ろから、愛しい人の声が聞こえる。弱い心が魅せる幻覚ではない。――肩を上下に揺らし、しっかりと此方を見る愛しい男性。
「士郎……!」
涙が、溢れた。