君とお揃いの晩夏

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「っ、危険だ、マスターしろ、ッ!」

「っと、余所見する暇があるのかよ」


 エージェントの前をランサーの槍が滑る。舌打ちをし、エージェントはランサーを蹴り飛ばす。士郎の覚悟、ギルガメッシュの欲求。先に折れるのはどっちか。エージェントは瞬時にワルサーを手に持ち、こっそりとため息を吐いた。


君とお揃いの晩夏 29
〜金色異端篇



 ギルガメッシュは肩で息をする士郎を見るなり、鼻でせせら笑う。そして、うんざりしたような表情をする。


「貴様、誰を許しを得て我が所有物を見ている」


 所有物、とは枯捺のことを指しているに違いない。士郎は奥歯を噛み締め、ギルガメッシュを睨む。
 
「枯捺は、お前の所有物なんかじゃねえぞ……!」

「ふん、屁理屈を。いずれなるのだ。それが遅くとも早くとも関係のない」

「お前のほうこそ屁理屈そのものじゃねえか!」


 士郎が怒鳴り声を上げると、直ぐ隣にセイバーが降り立つ。見えない剣をギルガメッシュに向け、士郎を横目に見る。


「士郎。ここは私に任せ、あなたは枯捺の元へ……」

「いや、いい」


 士郎がセイバーの前に手を出す。ギルガメッシュを睨んだまま、衛宮士郎はゆっくりと口を開く。


「こいつは、俺が倒さなきゃならない“最たる悪”だ」

「士郎! 駄目だよ、ギルガメッシュと1対1なんて、無謀だよ……!」

「枯捺」


 士郎は枯捺を見て、ゆっくりと微笑む。


「俺を、信じろ」


 それは何よりも強い強制力を持った。枯捺は口ごもり、泣きそうな顔のまま頷いた。


「セイバー、お前は枯捺の傍にいろ。分かったな」

「…御武運を」
 
 セイバーはゆっくりと頭を下げ、枯捺の傍に駆け寄る。士郎はそれを見届け、ギルガメッシュを再び見つめる。双眸の鋭く、相反する瞳が交差する。


「――雑種が、」


 ギルガメッシュの背後から無数の武器が姿を現す。《王の財宝》を解き放ったのだ。枯捺は息を飲む。一度目の当たりにした自分だからこそ理解できる。あれがどれほど恐ろしいものか、を。
 ギルガメッシュの怒気が篭もった声が、《王の財宝》と呼応する。


「誰を許しを持って、我を見るかッ!!!」


 ついに《王の財宝》が士郎に襲いかからんとする。一つ一つが宝具級の力を持つのだ。生身の人間が耐えうるはずがない!
 しかし、士郎はゆっくりと右手を前に出し、左手を右腕の肘に添える。


「――投影、開始(トレースオン)!」


 士郎の手から見慣れた刀が現る。それはアーチャーがよく手に持つ刀に似ていた。
 士郎はそれを両手に出し、ギルガメッシュの刀を撃ち落とす。極限の集中力の中にあるのか、士郎は身体に致命的なダメージを与える物だけ判断し、撃ち落としている。
 剣が折れればすぐさま再生し、肩を刀が掠めようが怯まない。
 まさに、そう。


――士郎が、剣自身だ…。


 無限の剣――。そう、それが衛宮士郎。決して本物になれぬ、偽物の本物を扱う。脆く儚くも、揺るがぬ闘志、譲れぬ大切な者。――衛宮士郎は、小さくも、尖った刃だ。


「雑種がっ」


 ギルガメッシュがたまらず声を漏らす。そして、端正な眉を潜め、静かに笑った。小さく、しかし徐々に甲高く笑い出した。


「笑ってやるぞ、雑種! 貴様風情が、我の本気を引きだそうとはな! だが、――これで終わりだ!」


 《王の財宝》から一つだけ、異形な形の剣が現る。その瞬間、空気が揺れた。否、振動する。恐怖におののき、大気が揺れる。
 士郎も、目を見張る。全身が粟立つ。あの剣は、“危険”そのものだ!


「いくぞ! 《天地乖離す開》」


「いい加減にしろぉおお!」

「嘘ぉおお!?」


 決め台詞を遮るように、エージェントの投げたランサーがギルガメッシュの後頭部を強打する。あ゛っ、と小さな悲鳴と共に英雄王とケルトの英雄は地に伏した。
 三人は石化したように、それでいて状況把握しようと言葉を失った。


 
 

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