君とお揃いの晩夏

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「贋物め。必ずその首奪ってみせ、」

「さっさと帰れ」


ガツン
 エージェントの拳骨は英雄王の脳天を揺らし、暫く意識を手放す羽目になった。



君とお揃いの晩夏 34
〜金色異端篇




 どこ行くの、どうしたの、何かあったの。――喉まで出掛かった言葉の山が、元の井戸へと戻っていく。士郎の様子が変だと自覚するには、今日の士郎の言葉と、今士郎が握る手の熱さ。指先の血管が踊っているのが悟られないよう緩めようとするが、士郎の手がそれを許さない。


「し、士郎……」


 ―どうしたの。
 問いかければ士郎は、もう少しと笑いながら諭す。士郎の部屋とは違う方向――つまり私の部屋に向かっている。もう少し、確かにもう少しだ。
 士郎はゆっくり襖に手をかけ、私の部屋に入る。さすがに遠慮がちに足の歩を弛めるが、意を決して入った。そして私を床に座らせ、士郎も共に座る。


「……」

「……」

「……」

「……」


 沈黙が痛い。
 私は真っ赤な顔を冷ますように勢いよく顔を上げた。


「士郎! あの、なんでここに来たの?」

「……」


 え、ガン無視ですか泣きますよ。
 士郎の顔をのぞき込もうと体を傾けると、途端に士郎が「うわっ」と声を上げた。


「ちょっ、待っ……っ」


 何故か手を前に出し、心の準備をさせてほしい。と蚊の鳴くような声で告げた。……心の、準備?


「……士郎、心の準備ってな」

「よし枯捺!」


 せめて最後まで言わせてほしい!
 涙目ながら士郎を見ると、何故か顔を真っ赤にさせた士郎が視界いっぱいに広がる。……あんるぇ、どゆじょーきょーよ?


「枯捺、昨日言ったこと……覚えてるか」

「昨日?」
 
 昨日。つまり私が気絶し起きた日だ。そのとき、起きてすぐ士郎がいて。確か。


「私が居なきゃ、どうしようもなく不安になる、だっけ」


 枯れかけの記憶の井戸を必死に掘り上げ、やっと出てきた言葉を士郎に投げかける。士郎は頷き、私はほっと胸を撫でる間もなく士郎の真剣な眼差しに胸をときめかせる。


「言葉通りなんだ、枯捺。ギルガメッシュ相手に言った、お前は俺のだ、も……言葉通りだ」

「士郎……」


 つまり。期待してもいいってこと?
 私は少し身体が震えているのが分かった。武者震いとか恐怖におののいている訳じゃない。単に、緊張からだ。


「あ、あのな。……お前に、どうしても言わなきゃいけないことが、ある」

「それって……、とっても大切なこと?」


 当たり前の質問をすれば、士郎は当たり前のように頷く。緊張に2人して身体が震えている。ふいに、士郎が私の掌の上に手を重ね、私の方へ僅かに体重を乗せる。
 更に近付いた距離は、私がずっと憧れていて諦めていた距離に似ていた。


「枯捺、ずっとお前が好きだった。いや、好きなんだ」


 言い直す士郎は、僅かに顔を和らげ微笑んでくれた。うん、うん、私は何度か頷き嬉しさに涙を流した。


「私も、好きだよ、士郎」

「おお」


 士郎は嬉しそうに頬を掻く。そして、お互い微笑みあい、近づいていた距離を0にした。重ね合った唇は、緊張で乾燥していたけど、確かに士郎の温もりがあった。



――――

金色異端篇、ついに次にてラスト!

 

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