君とお揃いの晩夏
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やったじゃない士郎。
遠坂の誉め言葉は悪戯に笑う表情と共に送られた。
「どうも」
「もう。嬉しそうににやけちゃって。セイバー、あなたはどう思う?」
「腑抜けています」
なんでさ……。
俺は2人を軽く流し、流し台でわざとらしくガチャガチャと音を立てて食器を洗った。
君とお揃いの晩夏 35
〜金色異端篇
しかし、と遠坂凛は衛宮士郎の背中を眺めた。背中を押してやったのはいいのだが、2人の仲はあれ以来進むどころか友達の延長戦上のように見受けられた。由々しき事態だと笑いながら見ているが、本当に進まない。
更に、ギルガメッシュも家に押しかけては求婚玉砕、求婚玉砕を何度も繰り返している。エージェントが何度も追い返しているが、これをきっかけにするのも良いかもしれない。
――バタバタバタ
と、噂をすれば影だ。凛は紅茶を机から持ち上げ、すっと口に含む。
「枯捺!我と結婚せぬか、枯捺!」
「帰れ!お前何しに来たんだ!」
士郎は手を洗い、ギルガメッシュの方へ目をやる。あわあわとビクつきながら奥から出てきた枯捺に器用に微笑み、ギルガメッシュを睨む。
「何と問われても、貴様、ついにその眼球までも贋物と成り果てたか?」
「よし今すぐ戦うか……!」
「はっ、弱い狗ほどよく吠える」
「あなたは狼でもないくせに吼えすぎです」
ぬっと背後から現れたエージェントがギルガメッシュの肩を掴む。人の留守を狙って、そう嫌みも込めエージェントはギルガメッシュをじと目で睨む。
「枯捺の恋人はマスター士郎と、何度言えば良いんです。今回で千回飛んで五百七回目です」
「嘯くな、アルマ」
「軽々しく呼ぶな」
互いにぎりりと睨み合う。
嘆息を漏らし、士郎は枯捺を手招きする。僅かに染まった頬が、これからすることを物語っていた。
喧騒の空間を縫うように現れた枯捺は、士郎の下まで駆けてくると、どうしたの、と楽しげに問いかけてきた。
「まあ、これからギルガメッシュの面白い顔、見たいだろ」
「悪い顔してるね、士郎」
「まあな」
にやりと笑い、士郎はギルガメッシュに声をかける。見とけよ、と枯捺の肩を抱き柔らかくキスをする。さすがの行動にその場に居合わす全員が絶句したが、凛の茶化すような口笛に我を取り戻す。
「きっ、さま……!」
「わっ、わっ、士郎大胆」
「まっ、俺だってやる時にはやる男だからな」
覚悟しろ贋物!お前が覚悟しろギルガメッシュ!がちゃがちゃどんちゃん騒ぎに発展した我が家を、士郎は優しく見守る。これからアーチャーがエージェントを止めにはいるだろう。それからランサーが魚を持ってきてくれるだろう。増えた人口密度に桜は驚くに違いない。美味しい魚に大河は必ず調理しろとせがむだろう。……。
(じいさん。本当我が家って幸せだな)
士郎は遺影を見つめた。ふと笑ったようにも見れたが、気のせいだろう。士郎はそろそろかなと時計を見た。
「今帰った……ったく、エージェント、そこまでにしたらどうだ」
「おーっす、今日大量に魚釣れたぜ!鯛だぜ鯛!」
「こんにちはー……って、まあ、先輩随分沢山の人が居ますね」
「おーっす!ってあらやだ凄く旨そうな鯛!ねえ鯛飯食べたいなあ!」
聖徳太子顔負けの会話の多さに、つい失笑しながら枯捺へ視線を移す。
「ね、士郎」
枯捺は小首を傾げながら士郎と視線を交わらせる。
「士郎は、今凄く幸せ?」
士郎は笑った。ごく当たり前のように。
「勿論だ、枯捺」
幸せなのは、きっと隣に君が居るからだ。きらきら光る未来に手を翳し、衛宮士郎は最愛の人に笑いかける。よかったね、枯捺の笑顔は溶けてしまいそうなほど暖かかった。
To Be continued.
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金色異端篇終了ですが、物語はまだ終わってませんね。この終わり好きなんですが、どうしてもやりたいお話があるので書かせてもらいます。では、また次回!