テニプリ
□君が好き!
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「しっ、らいっし、先輩!」
「ぶっ」
謙也と会話をしていた俺の口を強制的に閉ざした衝撃は、背中で猫のように擦りよってくる菜摘によるものだった。
白石先輩、謙也と何話してるんですか?ラブロマンス?パッション?お前俺を敬えや、つかうざ!
謙也に突っかかる小さな後輩は、俺の背中を鋼の盾のように握りしめたまま舌を出す。
またや。始まった。
俺はため息を吐き出す。菜摘は金ちゃんと一緒にテニス部に入ってきた、不思議な子だ。……と、いうか不思議の塊や。テニス部に入ったのは、選手としてだ。勿論、金ちゃんと並んで強い。新人戦にて発揮した才能は相手の弱点を正確に見抜くテニスプレーはまさに蝶のように舞い、蜂のように刺す。(冗談ちゃうで)
と、攻撃的で尚且つ柔軟性のある小さな後輩菜摘は、よく俺を挟んで謙也と喧嘩する。
「てか白石にくっついとらんで離れろや。菜摘みたいなじゃじゃ馬付いとったら迷惑やろ」
「白石先輩は優しいもん。ヘタレと違うよ」
「誰がヘタレじゃゴラ!」
「謙也だって言ってない!きゃっー、暴力反対!ゴンタクレ!」
くるくる俺の周りを回りだした二人。だのに菜摘は器用に俺の服を掴み掴み回る。あんなあ、いつも巻き込まれる俺を思って止めてくれんか。いや、切実に。
「なんばしよっと、2人とも」
「千歳先輩!」
「売られた喧嘩高(たこ)う買っただけや!」
「……迷惑ばい」
菜摘の襟首を掴み俺から離す千歳に感謝の言葉を伝えると、千歳は笑顔で応える。
ほんま俺の気持ちを千歳みたく察してほしい。女の子といえど、菜摘はつい最近まで小学校にいたのだ。しかも小さい。それが俺の服の裾を掴みうろうろするのだから、周りの視線が俺の皮膚組織を破壊する。ちゃいますよ皆さん。俺ロリコンちゃいますよ。
しかし、そう言いつつも何も言わないのは、かなり慕われてるからだ。全く悪い気がしないのだ。
「千歳先輩、謙也から敬遠するのは分かるけど、なんで白石先輩からも離すの?」
「んー? そげんこと、白石がロリコン見られるからばい」
「はあ、…白石先輩ロリコンだったんだ」
「……」
テニスの試合では相手の弱点を見抜き執拗に攻める小さな後輩は、こんなにも可愛い。冗談ばい、なんていう千歳の言葉に大袈裟な反応する菜摘に、ちょっとだけ愛しく感じる。妹みたいで可愛いのだ。
と、そういえば菜摘。なんでお前ここに来たんや。はよ教室帰れや。
謙也がしっしと追い払う仕草をするが、菜摘はえー!と声を上げる。
「白石先輩ともっとお話ししたい!謙也が帰れ!」
「ばってん、何で菜摘は白石とそんな喋りたと?」
「え、部活まで金ちゃん相手疲れるから」
「それだけぇ!?え、いや、寂しゅないけどそれだけ!?」
堪忍袋の緒が切れ(いやむしろ感化されたから)徐に叫べば、千歳と謙也は苦笑いを浮かべる。
そんなはずないよ!
菜摘はにっこり笑顔を浮かべる。よかった、やはり自分は慕われていたのか。不安に混じっていた喜びが込み上げ。
「白石先輩のこと(先輩として)大好きだからに決まってるよ!」
あかん。明日から俺は学校に来れんようになるわ。千歳と謙也の冷たい眼差しは俺の内臓を突き破らん勢いやったことを、俺は一生忘れんやろう。
――――
不憫な白石が素敵だよ!
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