テニプリ
□恋ストーリーは突然、らしいわ
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知っとるか白石。菜摘って、実は実はで人気あるんやで。
謙也が不思議そうに言葉を紡ぎながら廊下を見やる。ばたばたと走るゴンタクレ二人、金ちゃんと菜摘を見ながら。
「ほおかほおか。……で、何で今言うんや」
「いやな、この前財前から聞いたんや。あいつ、かなり人気者らしいで」
ああ、もちろん、男女ともに、やな。
謙也は相変わらず不思議に菜摘を見つめているが、俺はその耳を無意識のうちに引っ張っていた。痛いわ!と耳鳴りを誘う大声を張り上げた謙也に、これまた無意識に謝罪をした。
夕雅菜摘。
入部したての頃から変な子やった。
そりゃ金ちゃんと2人して即戦力になるし、ダブルスでもシングルでも文句なしのエリートプレイヤー。…まあ、女の子やから、マネージャーとして働く面も多々あるが。
そういってしまえば楽だが、俺はそう簡単に褒めたくもなければ貶す気もない。誉めたら誉めたで調子乗るし、貶せばうわんうわん吠える。
ただ、俺自身言うのも変だが、菜摘は俺にかなり懐いてる。いや冗談抜きで。同じオールラウンドプレイヤーという面もあるからだろう、その上部長もやっとるから、まあ、金ちゃんと比べたらよく懐いてる気がする。
白石って、菜摘のことどう思っとる?
謙也が悪意を込めた質問を投げかける。俺は答えを躊躇い、謙也に振り返す。
「謙也はどうや」
「あー、手の掛かるがきんちょ、いや、礼儀知らずの後輩でも…」
「自分と財前だけや、菜摘にからかわれとんのわ」
謙也がマジか、そらそうか、と口にする。謙也自身、こう小さな後輩である菜摘を口では貶しているが、内心絶大な信頼を寄せているのは確かだ。ゴンタクレ坊主の金ちゃんとダブルスを組んで見事に俺と謙也に勝てたんや、そら信頼するわ。
と、話が逸れたわ。白石は?
謙也がしつこく問い質す。知らん。でも、分からん。でも返せば満足するのに、俺の口からその言葉は禁固令でも出されたように、躊躇い拒絶する。
「さあ、どうなんやろうな」
ようやく出た言葉は苦し紛れの言い訳に扮して消える。
いつも目で追っかけて、金ちゃんと並んでいるのが気になって、謙也や部活のみんなに信頼されてるのがもっと気になって、俺の服の裾掴んで先輩先輩言う仕草に胸を鳴らして。
「……あかん、あかんわ、謙也」
「何がやねん」
「俺、」
金ちゃんと菜摘が楽しげに手を振る。ずるりとこぼれ落ちた言葉は、謙也の瞼をゆっくりと見開かせることとなった。
「菜摘が可愛くて可愛くてたまらんわ」
「黙れロリコン」
――――
帰ってこい白石!
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