テニプリ

□甘いキスは毒の罠
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 白石先輩は優しくてカッコいい。さりげなく道路側を歩いてくれて、歩幅の小さい私の足取りに合わせてくれたり、逐一私の状態を気にしたり、ずっと側にいてくれる。少々過保護な面もご愛嬌とすれば、自慢の先輩だ。
 そんな白石先輩と付き合いだして2ヶ月が経つ。案の定、恋に奥手な私と一枚上手の白石先輩で、ちょっとしたデコボコカップル(これには身長差も含まれてるみたいだ)として有名になった。
 どうしたん、菜摘。考え事?
 隣に立つ白石先輩がそう問いただしてくる。家まで送ってもらうのは部活に入ってからの日課だったが、ここ2ヶ月はずっと白石先輩に送ってもらっている。


「あ、あういえ…その、」

「言えへんことか?」


 優しい声色だが、どこか寂しげな温もりがある。そんなこと!跳ね上げた舌先が白石先輩の表情を明るくさせる。
 教えてほしいわ。
 白石先輩は優しくそれでいて楽しげに問いただしてくる。この白石先輩は答えが分かっていながら聞いてくる白石先輩の癖だ。悪癖にもほどがある。


「し、白石先輩のこと」

「俺が、なに?」

「〜〜ッ!」


 わざとらしく耳元で囁く白石先輩。ああもう、バカ!アホ!後が怖いから言わないけど!私はしばらく金魚のように開口閉口を繰り返し、真っ赤な顔で白石先輩を睨みながら白石先輩の求める答えを舌先まで導いた。


「……カッコいいって思ったの!」

「ありがとうさん、菜摘」

「っ、」


 これだ、これだから年上は。
 真っ赤な顔をする私と対照的に白石先輩は澄ました顔で頬を撫でてくる。私はご近所さんに注目されるの嫌なのと、白石先輩にからかわれた事もあり、足早に我が家へ向かう。
 待ってな、菜摘。
 喉を少し鳴らしながら白石先輩は私に少しだけ大きく股を広げ歩み寄る。


「すまんな、からかいすぎたわ」

「私だけドキドキしたんだよ!うう、恥ずかしくて死んじゃう…」

「いや、あんな、菜摘。死なん思うけどな…俺かなりドキドキしとるで」


 ほらと白石先輩に手首を掴まれ、胸へと誘われる。心臓の上、肋骨からもよく分かるぐらい、心臓が踊り跳ねていた。
 可愛い彼女からカッコいい言われたんやで、そら心臓さんも驚くわ。
 ちょっと照れたように笑う白石先輩を見上げ、私は更に顔を真っ赤にさせた。何でこの人はこう恥ずかしげもなく言えるのか。手に脂汗が滲み出る。


「…緊張しとん」

「え、そりゃ、まあ」

「俺も、同じや」


 白石先輩の顔が至近距離まで近付く。逸らそうとした頬を白石先輩の無骨な掌が包み込み、互いに向き合う体勢になる。
 うわあ、ちょっ。
 私の制止の声を無視して、唇を合わせてくる。柔らかくて幸せな空気が、唇越しに伝わってくる。


「……はあ、目を見開くのはムードもあらへんで」

「うっ、うるさいうるさい!いきなりキッ、キッ!」

「キスする俺が悪いんか?」

「わっ、悪っ、悪い!」


 そうかあ?満更でもないやろ。
 白石先輩の脛を蹴り上げ、知らない知らない!と白石先輩を放って歩いていこうとする私の手首を、残念な彼氏が掴んできた。あかんわ、なんて真剣な眼差しを向けてくる白石先輩の表情は心底獣のようで。


「なあ、俺今日帰れんわ。……家に、泊まらせてくれへん?」


――――
title by「マダムXの肖像」
この題名を見て白石しかいないと思った。

130601

 

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