テニプリ

□【触れる】
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※忍足謙也視点

 俗世間さま一般の話ではあるが、二の腕の柔らかさは女性の胸の柔らかさに相当するらしい。そう教えてきた従兄弟の顔を脳内で格子越しに見つめながら、目の前で瞳の光彩を巧みに放つゴンタクレ坊主に言ってみた。
 中学校一年生にして色恋沙汰が薄い後輩―金ちゃんへの小さなプレゼントと思い得になる話を記憶の井戸から掘り返してみた結果、ものの見事に変なものを掘り当ててしまった。考えず即言ってしまった口は、スピードスターの異名を確かに縁取っていた(実は褒めている)。


「つまり、女子はおっぱいが柔らかい柔らかくないかは二の腕触りゃ分かるっちゅーことか!」

「もっと言葉をオブラートに包みや!……まあ、そうなるわな」


 白石にこんなことを金ちゃんに言ったとしれたらどうなることやら。毒手といつも金ちゃんをからからっている手で高速スマッシュを叩き込まれるかもしれない。
 んでもわい、それほんまか分からんわあ。
 金ちゃんの言葉は尤もや。何せ従兄弟があれやらからなあ…。俺は試せば?と適当に言葉を選ぶ。金ちゃんだって流石にそこらへんにいる女子の二の腕触って胸触らんやろ。金ちゃんやし。いや、金ちゃんやからするかもしれん。どうなんやろ。


「謙也が眉間に皺寄せてる!皺スターだ!」

「誰が皺スターや、ネーミングのなさに惚れ惚れするわ!」

「あ、菜摘や!」


 よっと手を挙げる我らが小さな後輩菜摘が現れる。
 健ちゃん先輩は?部誌の書き方分からないから聞こうと思って来たんだけど。
 先輩であるはずの俺に尊大な態度をとる菜摘は教室を見渡す。残念やけど、白石とどっかに行ったわ。そう言えば菜摘は心底残念そうに眉を折る。


「なら謙也で妥協するよ」

「俺は妥協ポイントか」

「……財前よりかは普通だよ?」

「……嬉しないわ…」


 なんでよりによって財前と比較するんや。
 そう口に出そうとした俺の前を、つまり菜摘目掛け何かが飛び出す。刹那、酸素がなくなったかのように息が止まる。


「……謙也ほんまや、おっぱいと二の腕は同じ柔らかさや!」

「………………………………」

「ちょっ、きんっ、あかん、あかんて!菜摘も戻ってき!なんや?金ちゃんそろそろ離し!いつまで掴んでんのやどアホ!」


 ばしーんとゴンタクレの頭を縦一文字に叩き割る。やりよった。こいつやりよったで。しかもよりによって、胸と二の腕同時掴みなんていう勇者行為を行いよった!
 俺の心配をよそに、金ちゃんは更に精神崩壊した菜摘を追いつめんばかりに口を開く。


「うーん、でも柔らかないなぁ…」

「!」

「おかんのはもっと大きいし…」

「……」


 じわりじわりと菜摘の目尻にうっすらと涙のダムが決壊寸前のように漂う。あかんわ、これ。金ちゃんマジ最低や、女心分からんのは知っとったけどこれほどまでとは。
 わ、私。
 菜摘の涙のダムが、決壊した。ついでに感情も。


「テニスばっかりしてて筋肉質だし出るとこ出ないし幼児体型だけど金ちゃんに文句言われる筋合いないしっ、てか金ちゃんのママなんて知らないもん!!うっ、うわあああああ!!」


 金ちゃんのバカ!謙也のアホ!
 何故か俺の名前を叫び(いや確かに原因だけど)ながら、菜摘は廊下を駆けていく。お、追わな!立ち上がった俺を金ちゃんは不思議そうに見つめてくる。


「金ちゃん、今すぐ謝りに行くで!」

「えー、試せ言うたん謙也やで!」

「いやあんな金ちゃん、今すぐ行かな大変な目に、」


「あうわ、なぁ」


 あ。金ちゃんと俺の声が合致した原因の男は楽しげに包帯を解かしながら、俺たち2人を冷たい目で見つめてくる。その後ろには小春に抱きつきぐずぐず泣く菜摘の姿があった。


「2人とも。――勿論、覚悟はええやんな?」


 俺たちは引いていく汗の感覚が鬱陶しく、小さく身じろいだ。


――――
デリカシーなさそう!

130601

 

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