テニプリ

□妹、自慢します
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※夕雅姉視点(主人公名前しか出てきません)

「あっついわ。気怠い、よく炎天下の中走り回れるわね」


 夏の気だるさが骨の髄まで支配する。五月病と呼ばれるうつ病と無縁の者達が集うテニスコートを見つめ、うっすらと浮き上がる汗を白いタオルで拭った。
 マネージャー業も、いくら他にマネージャーがいるからって、それでも忙しく感じてしまう。特に夏になれば皆やる気が低迷してくる。
 やだわ、夏なんて。
 張り付く服を白磁のような指先でつまみ上げ、ゆっくりと風を起こす。髄まで暑さにやられた肉体から、生暖かい風が巻き上がる。私は夏が嫌いなので、今最高に機嫌が悪いだろう。


(そういえば、菜摘は夏が好きだとか言ってたかしら)


 大阪にておじい様の知り合いのおばさんが経営するアパートに泊まる妹を思い出す。
 あの子、テニスバカだから。熱中症で倒れてないかしら。きちんと水分補給をしなさいって言ったもの、聞き分けのない子じゃないから。部長の白石とかいう人も、信頼はできる…はず。
 四天宝寺に行くと言った日はさすがに反対もした。やはりおじい様と一緒に居た方が良いと思ったからだ。だのに、行きたいから行くの一点張りで、折れたのは私だ。それから、何かあったら電話しなさいって言ったら、入学したその日に電話があった。


『お姉ちゃん!大変だよ!』

『あらどうしたの?あなたの貧弱な身体が、制服着たせいで更に貧弱に見えたの?』

『グラマーなんていらねえ!いやそんなことよりさ、この学校入るときにボケなきゃいけなくてさ』

『ふうん。それで?』

『ボケたらスベった』

『…………あらそう、じゃあ』

『あ、ちょ、おねえ』


 その電話で確証した。ああ、大丈夫だと。元々明るい子だったから、すぐ慣れるとは思ってたけど。電話が来る度にさあ何を聞かせてくれるのかしらと胸を高鳴らせる自分が可笑しく思える。
 更に、テニス部に入ったと聞いたときはさすがに驚いた。さすが父さんの娘だと、感嘆したっけ。更に試合で邪魔だと言う理由で髪をばっさり切ったと聞いたときは更に驚いた。越前をコシマエと呼んだときは、驚いたのを通り越しボードを投げ訂正させた。


「……先輩暑そうっすね」


 噂をすれば影、越前が私の目の前に現れた。妹を思い出してたの、と言ったら越前は苦虫を噛み潰したような顔をする。
 菜摘っすか。あいつ苦手っすわ。
 的確に相手の弱点ばかり狙うオールマイティーのプレースタイルが気に入らないのか、はたまた妹の社交的な性格を畏れているのか、越前は帽子のキャップを掴み下げる。


「でもライバルでしょ」

「ライバル。……女子がライバルって、俺舐められてんのか弱いのか、……はあ、複雑なんで止めてください」

「ふふ、そうね」


 青空を見上げる。雲一つない快晴はほんの少しだけ私の不機嫌さを祓ってくれる。同じ空の下、コートを楽しげに舞う小さな妹を思い私は越前に目を向けた。


「暑いわね」

「先輩は年ッスからね」

「越前、覚悟しなさい。あなた、いつもより激しいメニューを用意してあげるわ」


 流れる汗をタオルで拭い、手塚のもとに歩き出す。四天宝寺が強いのは知ってるけどね、菜摘。青学だって負けてないわ。次会うまで、せいぜい腕を磨いておきなさい。……あと、背くらいは伸ばしなさいよ、牛乳飲みなさい、牛乳。
 白磁のような指先がボードの上を。ああ、夏は嫌いだけど、好きなことをするのは最高ね。


――――
お姉さんが書きたかっただけです面目ない…!
後輩ネタは長編にもともとしたかったので設定はあります。あるだけですけど!

130610

 

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