テニプリ

□壁ドン
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 金ちゃんとコートの端でホースの水を掛け合いっこする休日の昼間。弾ける水飛沫は太陽の光に乱反射して、青春の1ページを彩ってくれているようだ。
 金ちゃん、あんまり遊びすぎてたら謙也にまた怒られないかな?
 正気に戻りだした私を、未だホースの水で遊ぶ金ちゃんが制する。


「まだ大丈夫やろ!謙也やってそうぽこぽこ怒る力なんてないわ!」

「…どこからそんな自信出てくるの」

「うーん、ここ?」


 なんて言いながら金ちゃんが指すのは鼻先。それは野性的な本能ってことかな、敢えて聞かないけど。聞いたら負けな気がして、私は蛇口を捻り水を止めた。金ちゃんが抗議の声を上げたが、私はほんの少しだけ大人びた対応を見せる。


「水が勿体ないよ、だから、ここまで」

「えーっ!暑いやろ?わいな、むっちゃ脳みそぐちゃぐちゃで、可笑しないそうや!」

「…元からなんじゃ…」


 つっこみ不在の金ちゃんは暴走し放題。まあ、今日は確かに暑い。気温は三十二度越えてるし、湿度は五十二パーセント。暑さと湿気にやられそうだ。じめじめ暑い。
 暑いん嫌やて!
 金ちゃんが再び蛇口を捻ろうと手を伸ばすのを、私は制する。ダメ!嫌や!ダメったらダメ!いーやーや!無謀にも見える応戦に、遠くから私を見ている先輩たちは呆れている。勿論、謙也もそこにいるのだが。


「…あいつらほんま元気よな」

「今に始まったことじゃなか」

「トラブルメーカーのゴンタクレが集まったら、ああなるわなぁ…」


 ぐでーっと暑さにやられ伸びる先輩たちをよそに、私はしょうもない応戦をする。確かにオサムちゃんが水浴びしてもいいって言ったけど、打ち水が実は周囲の温度を上げることと同じで、やりすぎれば水浴びから離れられなくなる。夏の暑さくらい乗り切れ!私の声もどこ吹く風といったような金ちゃんは、ついに蛇口に指先が触れ、勢いよく水をぶちまけた。……私に。


「へぶっ!」

「あ!」


 びちゃあ、と全身に水が滴る。金ちゃん、逆に寒いよ。蛇口を再び閉めた金ちゃんは気まずげに視線を泳がせる。
 …あー。
 紡ぎ出す謝罪を待ちわびる私に、金ちゃんは笑顔を咲かせる。


「に、似合っとるわ!」

「っ、どういう意味よーっ!」

「あ、ちゃう!今のはな、ちゃう!」

「問答無用!」


 ラケットで金ちゃん目掛け殺人サーブを打つ。うわあああ、堪忍!堪忍したってぇな!金ちゃんの叫び声は昼空に溶け込む。
 ドン、ボゴッ。金ちゃんの鼻先を掠めた殺人サーブは、ついに壁にめり込むくらいレベルアップした。


――――
壁ドン=壁にめり込む
あるあるネタの一つだと自負する。

130610

 

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