テニプリ
□ばってん
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これはどういう状況なんだ。
謙也はじっとりと掌で脂汗が噴き出してくるのをぼんやり感じていた。僅かな混乱と困惑が謙也の感覚野全体を駆け巡り、また嫌な汗を噴き出す。その繰り返しで、謙也はようやく僅かに首を曲げ自らの足下を見やる。
「すー…すー…」
「……はぁぁ」
いつも吐き出すため息よりも少し長めなのは、きっとこの状況に戸惑っているからだろう。謙也はがしがしと頭を書き上げる。
菜摘が練習の疲れを、小舟のように上下に揺らす頭で表現していたのを、謙也はたまたま見かけたのだ。休憩中でも元気に駆け巡る菜摘のいつもの面影はなく、ただ睡魔に抱擁される子どものようだった。
どないしたん、疲れたんか?
そんな謙也を見るなり、菜摘は無言でズボンの裾を掴み地面に誘う。ぬ、脱げ!だらしなく発した非難を無視し、菜摘は謙也の膝元に頭を乗せ、ヒュプノスのもとに旅立った。
それが嫌なわけではない。まだ甘えたな年頃で1人下宿する菜摘なのだ。拒否する意味はない。が、これでは。謙也は半ば諦めたようにラケットのグリップを直し始める。
「うぅ……」
もぞもぞ丸まる菜摘に、謙也はたまらず笑みをこぼす。
なんや、やっぱ餓鬼やな。
年上である謙也を敬うことがない菜摘の貴重的な面に、謙也は嬉しげに見つめる。
ううん、う、けん…やぁ。
さくらんぼを詰めたような柔らかい唇が紡いだ名に、謙也は目を見開く。浅い眠りではなく、深い眠りに入っているようだ。いや、そんなことはどうでもいい。何故自分の名前が。謙也は菜摘が自らの名前を紡いだ唇を見つめる。
「……起きとるか?」
「すー……うう……ん」
「……爆睡やないか」
なにやっとったんや、昨日。
緑生い茂る木の隙間から木漏れ日が差し込み、菜摘と謙也を照らす。そっと唇に触れる。規則正しい寝息が、謙也の無骨な指先に触れる。
このまま、したら。
謙也は唇に触れようと伸ばした指先を伸張させ、自己に問いかける。何をしたらなのだ。それは途方もないようで明解な問い掛けだった。
「……」
謙也は指先を菜摘の唇、ではなく鼻へと持ち上げた。そして、鼻骨を摘んだ。ふがっ、と少女とは程遠い鳴き声に、謙也は笑い声を漏らす。
「おまっ、ぶっ、豚っ、みたいに鳴きよって!」
「……なにが?」
とろんとした眼差しを謙也に向けたまま、菜摘は小首を傾げる。何故豚なのだ。訴えるも謙也はラケットを支えに立ち上がり、掌でズボンの砂を払った。
「気にすんなや、お詫びに練習相手してやるで」
「…よくわかんないけど…、得したんだね。ふはぁぁう」
欠伸をしながら持ち上げた身体は清々しさを保っていた。謙也。菜摘はラケットを握りしめ、先ほどまで枕代わりをしていた謙也に笑顔を向ける。
ありがとう、謙也。
その笑顔は、謙也を貫いて。
「……おう」
謙也はラケットで口を押さえる。真っ赤になりかけた頬は、先ほどの未遂現場を思い出したからだ。
キスしたいなんて思ったんは、言えへんわ。ロリコンや、ほんま。
謙也の行動を横目に、菜摘の表情は向日葵に似て輝いていた。
――――
うーんなでき。
てんやわんやの文になりました/(^q^)\
130610