テニプリ
□喜劇役者と喜劇願望者
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よく人生の壁にぶち当たるなんてあるが、私は持ち前の脳天気さを武器に、当たる壁を悉(ことごと)く粉砕していったので、気苦労もしなければ迷いもなかった。
なので、現在壁にぶち当たってしまったことが僅かに怨めしい。物理的な。
「……ううーん…面白いことなんてないんだけどなぁ…」
こればっかりは持ち前の脳天気さでどうこうできる問題ではない。天の神様やって中学校を決めるんじゃなかったかも。うん、ちょっとした後悔。いやでも覚悟を決めてボケなきゃいけない。…ボケる…ボケる………………なんでボケれるんだ、四天宝寺の諸君!
門の前で羞恥心に乱舞される我が身を恨めしげに見つめる。ここはチビネタ…いや嫌だって。負けた気分になる。
そんな私の肩を、白石先輩が叩く。どないしたん、白石先輩の言葉に私は苦笑いを浮かべる。
「いやぁ…羞恥心に負けちゃって」
「羞恥心?なんや菜摘にもあったんかいな。防犯ガラスのハートがあちちなんか」
「そうなんです!防犯ガラスも溶かさんばかりの勢いで羞恥し……酷くない、白石先輩!」
悪いな。なんて笑う白石先輩の鞄を、力いっぱいマントルの方向に下げる。私の力でぴくともしない白石先輩は、門を見て涼しい顔をする。
「もしかして、まだ言えへんのか」
「うぐ…そりゃまぁ…」
「俺も苦手やけど、やらなぁあかんで。入れへんし、もどかしいし」
「……中学校までボケたことのない私なんだよ。そう覚悟決まらないよ…」
どうして人前でボケることが出来るのだろうか。そんな私の後ろから金ちゃんが飛びかかり、更に千歳先輩の声が頭上から振り落ちる。
なんばい、またやっとると。覚悟が決まらなくて。頑張りや菜摘!
人事だからって、いくらなんでも希薄すぎないだろうか。いや、期待してないけど。
「ネタがないんか?なんならユウジに貰ったら」
「いや、あるのはあるんだけど……」
思わず口を紡ぐ。オサムちゃんと知り合いだという大爺(祖父)から聞いて考えたネタがあるのだが、言う勇気がない。
おやじギャグだよ?寒くないかな…。
私の戸惑いを、千歳先輩が柔らかく受け止める。
「心配なか。白石と謙也の方がよっぽど寒かよ」
「千歳、それどういうことや。いや俺もあかん思うけど、そんなストレートに言わんでも」
千歳先輩が背中を押す。言えってか、公開処刑ってか、白石先輩と謙也みたくスベれとな……!
腹をくくるのに一分は要した。早くしなきゃ白石先輩にも千歳先輩にも金ちゃんにも、他の人にも迷惑がかかる。よし言うぞ。言って逃げてやる…!
「…い、」
息が詰まり、一瞬だけ目の前がちかちかした。恥ずかしいぞすっごく恥ずかしい!お姉ちゃん!オラに力を分けてくんろーっ!うわあ、今のが面白いかも。脳内が麻薬に取り付かれたように、代わる代わる連想ゲームを点滅させる。
「いもがポテっト落ちたんじゃがぁぁー!!!うおあああ!恥ずかしいぃぃーっ!」
開いた門から勢いよく中に入る私に、何故か感激の眼差しを向ける白石先輩と千歳先輩と金ちゃんがいたのは、後々来た小春ちゃんから聞いた。
……ここまで恥ずかしくて悶えていたのに、二ヶ月後には抵抗がなくなっている私を、唖然とした眼差しでお姉ちゃんが見つめてくるのは、また別の話。
――――
芋がポテっト落ちたんじゃが。
分かりにくいかもしれませんが、「芋」と「ポテト」と「じゃが(いも)」で、芋尽くしのおやじギャグです。
兄が言っていたのが格好良かったので、つい。
130610