テニプリ
□はいニッコリ!
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この支配からの、卒業〜。支配っちゅー点は疑問やけど、卒業やねえ。
ユウジ先輩が高らかに歌を歌う横で、これまた同調するように頷く小春ちゃん。卒業式だというのに、この人達はいつも通り過ぎないだろうか。健ちゃんだって、銀ちゃん先輩だって、白石先輩だって、千歳先輩だって。いや、その点で言ったら先輩の門出だというのにいつもと変わらない、私と財前と金ちゃんも異常なのかもしれないが。
なんや、浮かん顔しとるな。寂しいんか。
銀ちゃん先輩が私の顔をのぞき込みながら、眉をハの字に折り曲げる。ううん、そんなこと。喉に引っかかり出てこない言葉の変わりに、私はため息を吐き出す。
「だって、白石先輩たちが消えたら、財前と金ちゃんが暴走するもん。やだなぁ、オサムちゃん大丈夫かなぁ……」
「少なくとも、ゴンタクレの金ちゃんと菜摘よりかはマシや」
「誰がだアホ!バカ!うう…」
「ちょっ、あああかんよ、菜摘。泣いたらあかんて!」
白石先輩が私の背中をさすってくる。ううバカ!財前のっ、バカ!私が制服の袖を涙の川で濡らしているのを、金ちゃんが潤んだ瞳で見つめてくる。なんだ、金ちゃんも寂しいんじゃん。小春ちゃんに泣きつきながら、私はそんなことをぼんやり考えた。
「白石ィ、ほんまに卒業するんか?みんなも、もう一年くらいおらへんの?」
「いや、さすがにおれへんわ…」
「ううう、健ちゃんが正論言って苛めるぅー」
「菜摘ちゃん、泣いとらんと笑って見送ってほしいわあ」
「せやで。卒業式なんや、笑いや」
小春ちゃんと銀ちゃん先輩はそう諭してくるけど、いや意味わかんないよ。卒業式で笑うのはさすがに不謹慎なんじゃ。なんて思う私の横で、財前がわざとらしく笑う。喉を鳴らす、というより息を吐き出す行為に近かった。
「別に先輩らおらんでも、俺ら何も心配してへんっスわ」
「最後まで生意気なやつやわ、ほんま」
「ほんまのことやから」
不敵な笑みで謙也を貶す財前は、何故か大泣きの私と半ベソをかく金ちゃんの襟首を捕まえて、首に腕を回した。
なにすんや財前!うわぁん、小春ちゃぁーん!
各々の反応を示す私たちに、財前はこれまたわざとらしく腕に力を入れる。ごめ、締まる!大人しくなった私たちを誇らしげに、財前は白石先輩たちを見る。
「俺らが、今以上の四天宝寺中テニス部にしてやりますわ。な、2人とも」
「うっ、なんや財前に言われると癪やけど…当たり前や!全国制覇くらい余裕や!」
「女子の名は更に私が広めるよ!だから、うっ、し、心配いらないよバカーっ!」
うわぁん、バカーっ!お前バカばぁ言っとるな。菜摘らしか。
ユウジと千歳先輩が私の頭を撫でてくれる。寂しいなぁ。遠くの高校行く人もいれば近場に行く人もいる。が、今みたいには会えなくなる。
せや、写真。写真撮ろうや。
白石先輩がカメラ片手に私たちを見る。
「四天宝寺中テニス部の集合写真くらい欲しいやろ?」
「ぐすっ、うん」
「なら決まりやな。ほら、早よ並び」
白石先輩が私と金ちゃんの手を引いて中央に導く。私と金ちゃんの間後ろを財前。そして周囲には三年生。寂しくなる。これからは三人で引っ張るんやで、なんてオサムちゃんが言ってたけど、大丈夫かな。
そんな私の心配を余所に、白石先輩はセルフタイマーを設置する。
「掛け声なんにする?できればイ行がええやろ」
「んーっ!エクスタシー!あ、イ行ちゃうやろか?」
「却下やで、それほんま問題外っちゅー話や!」
「小春、お前菜摘の肩に手添えとんや、母さんポジションか?」
「ユウくんこそ、お父さんポジションにおるくせに」
「掛け声なんになるんや」
「諦めが肝心ばい。……あと十秒でシャッターが落ちる」
「菜摘、こんな先輩ら放っといて掛け声言えや」
「菜摘なら大丈夫や!」
えええ!
ちかちかと点滅仕出したシャッターに、私は頭が真っ白になりそうになった。じゃ、じゃあ。私は掛け声もとい四天宝寺らしい言葉を叫ぶ。
「か、勝ったもん!」
「勝ちーッ!!!」
良い笑顔だと、思った。
――――
あ、オサムちゃん忘れたし、オチ違うし。…まあ、いっか!
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