テニプリ

□花火のように
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 神様という存在がいるのなら、意地悪な人格者であることは疑いしれないだろう。
 鳴り響く着信音に苛立ちを感じ、俺はたまらず携帯電話の電源を落とした。どうせ浪速のスピードスターとかいうアホな先輩からだろう。
 今急いでるんすよ。それにまだ、明るいやないか。
 遠くの空に金星が瞬いている。一番星といえば美しい存在のように映えるが、一人ぼっちで輝いて他の星が出てきたら消えはる。自嘲気味に俺は鼻を鳴らす。


(なんや俺みたいやんな)


 土手に着いた俺に真っ先に気付いたのは、俺にそう錯覚させる小さなバカの声だった。


「財前!来ないかと思ったよー」

「俺一人くらい、支障あらへん気が」

「あるよ!」


 夕雅菜摘。女の子にしてレギュラーの座に座る通称「小さな後輩」。俺は、こいつが苦手で毎日胸が痛い。
 最初俺が自分を金星みたいだと思ったのは、こいつが原因だ。いつもどこでも笑顔で、会話は交わすものの他のメンバーが来れば、真っ先に俺は菜摘から距離を置く。嫌いではない、苦手なのだ。
 財前、お前さっき俺からの着信無視したやろ!なんで電源落とすねん!はあ、気分っす。気分やと!?
 やはり根に持ってやってきたか。俺は逃げるように河原の近くまで歩く。近くには、蝋燭とチャッカマンと、花火一式。そう、今日これから花火をするのだ。それにお呼ばれされたって、めんどうこの上ない。


「財前、どの花火からする?」

「……」


 どうしてまだ付いてきてるんや。
 喉仏に引っかかった言葉を脳内で削除し、俺は花火の道具を弄る。遠くで金ちゃんが火のついた花火をぐるぐる回しているのが分かる。怒号がよく聞こえるからだ。
 ロケット花火か、ネズミやろか。
 俺のチョイスが微妙だったのか、菜摘は困ったような顔をする。どうして、光彩がそう語っていた。


「そらまあ、……攻撃用やな」

「誰を攻撃する気や、タコ!」


 分かっているなら聞かないでほしい。見つめる花火の山々は、俺に選ばれたいのか選ばれたくないのか、ただ静かにそこに居座っている。
 ……菜摘は何にするんや?
 選びかねた俺は隣に腰を下ろす菜摘を見る。しばらく虚空を見つめ、それから花火の山に手を突っ込む菜摘は、笑顔で一つの花火を取り出す。


「線香花火ーっ!」

「落ちやないか、それ」

「うん?落ちだよ、落ち」


 だって私けっこうやり終えたんだよ〜。そう言ってバケツを指差す菜摘に、俺はなにも言えずため息を肺から吐き出した。待っとけや。俺の言葉に菜摘は、待ちきれなかった子どものように笑みをこぼす。……はあ、ほんま調子狂うわ。


「私は線香花火するけど、財前はやっぱりネズミ?ロケット?」

「……いや。俺も線香花火にするわ」


 一本受け取り、火元に近付ける。
 ぱちぱち。光をまき散らす小さな花火を、俺は落ちないように静かに見つめる。その横で、菜摘は嬉しそうに笑いながら線香花火を眺めている。


「綺麗だね、線香花火!」

「……好きなんか」

「うん?嫌いな人は少ないんじゃないかなぁ」


 そやな。
 俺は菜摘の手元で火花をまき散らす線香花火の先に、俺の線香花火をくっつけてやった。融解して簡単に1つになった線香花火に、菜摘は向日葵のように笑顔を瞬かせる。


「財前!見てみて、線香花火がもっと激しくなった!」

「うっさいわ。見とるから、落ちんよう注意せや」

「財前も片方持ってんだから、財前も注意しなきゃ」


 アホみたいや。
 1つに融解した線香花火を、二本の束でつなぎ合わせて。それを嬉しく眺める俺がおって。
 向日葵のような笑顔を見つめ、線香花火が落ちないように手の震えを抑えた。


(ほんま…ほんま、線香花火は羨ましいわ。戸惑いなく1つになれるとか、俺よりカッコええわ)


――――
Fire◎Flowerみたいにしたかったけど、脱線した。
財前難しい…!

130610

 

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