テニプリ

□泡に帰する
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 初めて出会ったのは、小学生の頃。兄貴の所属する部活のマネージャーの妹、なんていう無縁に近い位置付けからだ。一つ下のころころ表情の変わる可愛さは、未だ恋愛に疎い俺の心を簡単に鷲掴みにした。
 そんな幼子の頃の気持ちを捨てきれず過ごした二年間は、ある意味運命的な再会を果たすことにより、報われることとなった。


「……裕太さん?」

「…………え、菜摘、か?」

「わっ、やっぱり!裕太さん、お久しぶり!」


 練習試合という名目でやってきた四天宝寺のレギュラー陣の中に、ぴょんぴょん跳ねるだけの変な子がいると思ったら、まさか菜摘だったなんて。
 唖然とする眼差しに、菜摘は居心地悪そうに身動ぎをする。


「裕太さんの目、なんだか宇宙人見てるみたいだなぁ…」

「あ、ご、ごめんな。いや、変わってなかったから」

「そうかな?うーん、背が伸びてないからかな……」


 自分の頭上を横一文字に手を振る菜摘の姿は、以前と変わらぬ愛らしさを纏っていた。変わらないのは美徳だろ。言い出したそうに喉は揺れるが、唇は緊張に震えている。
 あ、あのさ。試合を開始しますよー!
 吐き出そうとした言葉を、観月さんが遮る。本当にタイミングが悪いんだから。言葉の代わりにため息を吐き出した俺に、菜摘は子どもっぽく笑いかける。それすらも可愛いなんて、俺は重度の患者みたいだ。


「裕太さんも試合やるんだ」

「ああ。菜摘は、やらないのか?」

「んー…。スコアを取るから、今日はやらないよ」

「そっか」

「なあに、裕太さんは私と戦ってみたかった?」


 弱いよー。
 なんて。俺は脳内だけ立派に働くのだ。生まれる言葉を捨てて、言いたい言葉を震わせるだけ。
 駄目じゃないか。俺は。
 観月さんがいよいよ声を張り上げてきそうになったので、俺は慌てて菜摘に手を振り観月さんの元に走る。


「じゃ、じゃあ!」

「あ、うん。頑張って」


 菜摘も小さく振り返し、自分の居場所に帰って行く。どうして、近いのに遠い、遠いのに近すぎる距離感は、俺を苦しめてばかりだ。笑顔を向ける相手が俺1人でないことが、心苦しい。
 んふっ、何やってたんです、裕太!もうじき練習試合を開始すると言うのに!ウォーミングアップは済ませましたか!?
 観月さんの声に、俺はただただ頷くばかりだ。やりましたよ、もう。俺の言葉に観月さんは静かに頷いた。


「全く、女性との逢瀬は試合の後にしなさい」

「…、え?」

「さ、早く行きますよ」


 俺は憮然たる眼差しを、空中に漂わせた。逢瀬なんて。血液が頬に集中する。恥ずかしかったからじゃない、そう見えたことが僅かに嬉しかったから。
 頑張って。
 言われた言葉を思い出すと、俺の心は急激に曇りだした。できれば、勝ってねと言われたかった。遠くなった心は、凍土のように寂しく。


(菜摘、お前ってほんとうにズルいな…)


 あの言葉が、俺の心理層を深く抉ることを、知らないなんて。ズルいやつだ。


――――
初裕太で意味が分からない゜゜
話し方も迷子だし、よくわかんないし。それでも好きだけど!

130703

 

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