テニプリ
□センチメンタル
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※白石蔵ノ介視点
ヘタレで電光石火な忍足謙也は、ポジティブで天衣無縫な菜摘と、一応恋人関係にある。いつも口喧嘩をしていたのに、気付けば手を繋ぎながら口喧嘩する仲になっていたのだから、隅に置けんわなんて感動したこともあった。
別称スピードスターと言われる謙也だが、どうやら恋まで時間勝負とはいかないらしく、なにより最近気付いたことがある。こいつ、予想外にメンタル面が雑魚いわ。つまるところのセンチメンタル。
「菜摘がなぁ、金ちゃんとばぁ話すんや…」
「そらまあ、同じクラスやし、一年レギュラー陣同士仲良しこよしさんでも当たり前やろ」
「せやろか?せやろか、せやろか……!」
頭を抱え込む謙也がちょっとだけ笑えたのは、言うまでもないだろう。
浪速のスピードスター(笑)だって、悩むときは悩む。
ただ、悩み方が異常なのだ。いつも以上にくよくよヘタレパワー全開で愛しの彼女をキョロキョロ探す。見つけて、そら男ばっかのテニス部やから、千歳とか財前のところに居るのを見て、これでもかってくらい項垂れる。その内小春とユウジ見習うて、ダブルス組みたいなんて言い出すんじゃ、
「菜摘!あかんわ、これから俺とダブルス組もうや!ずっとや!」
「ひっ!?」
「謙也!なんばしよっと!?」
言い出したわ。ほんま期待を裏切らんスピードスターやわ…。謙也さん、マジどん引きっす。財前が謙也を軽く睨んで菜摘を謙也から遠ざける。
なんっで菜摘に触っとんのや、財前!ばっちい手離しや!謙也さんの心の中の方がばっちいっすわ。
この場面だけ見たら、謙也の彼女を奪おうと財前が前に出てる、みたいやけど実際のところは、彼女にラブルス迫る変態謙也と可愛い後輩を守ろうとする財前。……どっちが彼氏なん、と問いたくなってしまう。
「え、謙也。いきなりなんでダブルス組もうなんて」
「小春とユウジみたいに、夫婦漫才テニスがしたいんや!」
「菜摘。別れぇまでは言わんけど、暫く近寄らんほうがええわ。こいつは変態の皮被ったド変態や」
「なっ、な!な?」
部長として、ここは止めに入らなあかんかもしれんわ。でも入るんめんどいし、それに挟まれとんのは我らが小さな後輩菜摘や。いくら謙也の彼女言うても、変態に迫られるの黙ってみてるやつはテニス部におらん。
「もお!ラブルスはうちとユウくんの特権やで!」
「せや、お前は不純な動機ありきのダブルスやろーが!」
「あー!謙也が菜摘を困らせとる!」
「…落ち着きや」
「えらいことなっとるばい」
一斉に菜摘を変態から守りだした騎士(ナイト)たち。(まともな騎士さんがおらんって?もとからやろ)
変な図や。彼女から引き離される謙也。いやー、写真撮っときたい。
ギャーギャー吼え散らかすテニス部の近くで呆然と立ち尽くす菜摘。そんな菜摘の近くで苦笑いをもらす、小石川健二郎が俺と菜摘を見つめながら、確信に近い質問をする。
実のところ、菜摘ちゃんはどうしたいんや?
菜摘はさも当然のことのように、小首を傾げ解答を導いた。
「謙也と一緒にやったら体力面での心配しなくても済むけど」
「…けど?」
「無駄な風起こされて、私との相性は微妙なんじゃないかな」
……そらそうか。
納得の色を見せる俺の近くで謙也がわなわな震える。
「っ、アホぉおーっ!」
いつだって彼は、センチメンタル。面倒くさい。しかめた眉が菜摘の面倒くささを物語っていた。
――――
謙也は彼女大好きそう。
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