テニプリ

□【止まる】
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 なんでも、菜摘と白石が喧嘩したらしく、菜摘は心底ウンザリとした表情で廊下を歩く。なあ、菜摘、大丈夫か。頬を腫らし、目元を濡らした菜摘の耳には、わいの声は届かなんだ。謙也も放っとけ、なんて言うてたけど、泣き出したそうに顔を強ばらせる菜摘を見るだけで、心配はパラメーターを突き破る。
 原因は、菜摘にも白石にも比はないらしい。千歳曰わく、「何の相談せんと突っ走る菜摘を白石が叱っただけばい」なんとさ。……よう分からんが、相談せんことに白石が怒った。みたいな?


「そら、菜摘も悪いわ」

「……付いてこないでよ」


 いつもの笑顔はどこへやら。泣き場所を探し彷徨う菜摘は、わいに目もくれず突き放す。
 嫌やて。やだ、帰って。せやから、帰らん。もう、もう…!
 小刻みに震える肩は、果たして何に対する怒りなんやろ。頬を叩いた白石に対するものか、相談嫌いの菜摘に対するものか、はたまた付いてくるだけのわいに対するものか。どれにしても、怒っているのは確かなんやけど。わいは菜摘の肩を掴み、こっちに振り向かせた。


「白石かて、菜摘を心配したからやで」

「そんなこと…分かってる」

「なら、ちゃんと言わなあ」

「言いたくない…」

「…強情や…」


 わい自身我が儘の塊なんて思うてたんやけど、自分も大概我が儘の塊やな。
 言いたくないけど仲直りしたい、なんて。白石やって同じ気持ちやで。溜め込む小さな後輩――わいにとっては同級生を、見つめる。


「逃げるのは臆病者の特権やないんやで」

「……?」

「逃げるんはな、次の態勢を整えるためらしいで!」

「ぷっ、はは、金ちゃん、なあにそれ面白い!」

「やから、な」


 ぱちんと両頬を優しく包み込むように叩く。白石に叩かれた方に痛みが走らないように包み込んだ両頬は、一方より熱を帯びていた。
 菜摘は笑顔が一番可愛い。やから、笑(わろ)うてほしい。こっぱずかしくて言えへんけど、わいの気持ちが間接的にでも、伝わればええな。


「一回、立ち止まってみるのもええんやで」

「……?」

「それから、立ち上がればええ。やから、な、わいが側にいたるから、一緒に止まろうや」


 ……金ちゃんったら、ちぐはぐな言葉でよく分からないよー。
 そう言う菜摘の言葉は、袖に染み込む涙と共にジャージの中に消えていった。


――――
金ちゃんは意外と世話焼きだったら可愛いなぁ。

130703

 

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