テニプリ
□君の心に巣食う悪魔になりたい
1ページ/1ページ
この勝負で俺が勝ったら、お前の所有権は俺が持つ。
そう言い放ち、菜摘の苦手である持久戦に持ち込みいたぶった俺は、まさに悪魔だっただろう。肩で息をする菜摘は、俺を見上げ目を細める。
赤也、…君は。
何がしたいんだと問いただしたそうに動く口を、ラケットという凶器を向け無理に閉口させる。
「……お前が、悪いんだ」
「っ、あかっや」
「お前が何もしなかったら、こんなことに」
絶望に揺れる瞳は、酷く滑稽な俺の笑みを映していた。ガラス玉のような光彩を放つ鈍色の光。曇天とは無縁の快晴が俺たちを歓迎する。
……菜摘。
菜摘の肩を掴む。体力が皆無となってしまった肉体は、俺の握力ひとつで悲鳴を上げた。眉をしかめ、やはり寂しげに瞳は揺れ。どうしようもなく、愛おしく感じた。
「……赤也、可笑しいよ、これ……!」
「……うるせえっ!」
ラケットが土を穿ち、地面を跳ねる。いきなりの怒鳴り声に驚いたのか、菜摘は目を見開き閉口した。何か言いたげに眼差しを泳がせて、それから視線を俺の瞳に向けた。
「所有権は俺が持つ。こうでもしないと、お前は……ッ!!」
誰かのところに行ってしまう。
それは恋心が無情に叫ぶだけ。意に反して指先は菜摘の頬を滑る。弛緩して小刻みに震え、臥せられた瞳は涙色に揺れていた。
……ごめん。
俺は口先だけの謝罪を述べた。
「でも本当に、本当に、本当に大好きなんだ……っ、好きなんだ、離したくないんだ……」
「あか、や……、」
「好きで、好きだ……!」
舌っ足らずの赤子のように、俺は菜摘を抱きしめる。優しい菜摘はそんな俺を拒めず、遠ざけれず、受け止めるしかできないだろう。
残念ながら、計算通りなのだ。
元々勝負なんて計算次いでの、謂わば前菜だ。
気付いてないよな、気付けねえよなあ、気付くはずないよなあ!――だって、菜摘は“優しい”から、“気付かないふり”して抱きしめ返してくれるよな。
「……私、赤也の所有物(もの)になるよ……」
その言葉が意図する先は、果たして。
俺の心の隙間に咲く、黒い薔薇が揺れた。
――――
thanks title by「マダムXの肖像」
黒い薔薇→あなたはあくまで私のもの。
130703