テニプリ
□君の心を救う天使になりたい
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この勝負で俺が勝ったら、お前の所有権は俺が持つ。
そう言い放たれて、私の苦手な持久戦に持ち込まれ一方的な試合展開を見せた赤也は、まさに悪魔だった。肩で息をする私を、赤也は寂しげに目を細め見つめてくる。
赤也、…君は。
どうしてこんなことを、と開口しかけた口先を、ラケットという凶器を向けられ無理矢理閉口させられた。
「……お前が、悪いんだ」
「っ、あかっや」
「お前が何もしなかったら、こんなことに」
僅かな希望を信じる私の瞳の奥に、酷く寂しげな笑みを携える赤也が映った。悪魔より優しい眼差しが水晶玉のような光彩を放つ。曇天とは無縁の快晴が私たちを歓迎する。
……菜摘。
私の肩を掴む。体力が皆無となってしまった肉体は、赤也の握力ひとつで悲鳴を上げた。どうして、赤也。どうしようもなく、遠く感じてしまう。
「……赤也、可笑しいよ、これ……!」
「……うるせえっ!」
赤也のラケットが土を穿ち、地面を跳ねる。怒鳴り声、というよりかは悲痛な叫びに似ていて、私は何も言えず閉口してしまった。こんなとこ、どんな言葉を掛ければいいのか分からず、瞳を泳がせた。大切なものを取られる子どものような赤也の叫びは、子どもの私には痛いほど分かる。でも、何も言えない。
「所有権は俺が持つ。こうでもしないと、お前は……ッ!!」
私は、何なのだろう。
そんな無精のこと聞けるはずもなく、私ら赤也を見つめ続けた。夏の日差しは、こんなにも痛かっただろうか。
赤也の武骨でしなやかな指先が私の頬を滑る。好いてる相手の指先に心躍る私は、緊張により身体は震え、興奮に瞳を濡らしてしまった。こんな場面でも、恋心は揺れるのか。
……ごめん。
赤也が口先だけの謝罪を述べた。
「でも本当に、本当に、本当に大好きなんだ……っ、好きなんだ、離したくないんだ……」
「あか、や……、」
「好きで、好きだ……!」
舌っ足らずの赤子のようで。赤也は私を抱きしめた。私は赤也の背中を回そうと腕を動かし、静止した。このまま先に進んでしまったら、誰も戻れなくなる気がして。今なら、まだ。淡い期待は、赤也という大切な人の前で泡沫に消える。戻れなくてもいいじゃないか。――赤也が、いるから。
残念ながら、これは私の傲慢だ。
優しさなんて一切ない、私の我が儘だ。
赤也は気づいてないだろう。いや、気付くはずない。だって、これは。
私は赤也を抱きしめ返した。戻れないことに、鼻を鳴らして。
「……私、赤也の所有物(もの)になるよ……」
その言葉が導く未来は、果たして。
赤也の心の隅に咲く、一輪だけの白いキクが花弁を落とした。
――――
thanks title by「マダムXの肖像」
白いキク→誠実、真実
人がみる角度によって話が変わるね、って言いたかっただけなんだ…!
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