テニプリ

□そこにあるのに見えないものなんだ?
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 パンはパンでも、食べられないパンはなーんじゃ。
 雅治のお兄ちゃんがそんなことを言ってきた。三年くらい前までは、一つ屋根の下で互いに小馬鹿にしあった仲だったが、一度も謎々なんて出したことなかった。無論、出されたことも。
 さては、またペテン的なことでも。私は右脳をフル回転させて、必死に答えを導き出した。


「……カビたフランスパン」

「……食えんの……」


 どうやらお門違いの解答だったみたい。雅治のお兄ちゃんは確かにじゃが、いや間違うとらんじゃき、などとぶつぶつ呟いている。
 もー、じゃあ何?
 私が待ちきれず頬を膨らますと、雅治のお兄ちゃんはこれまたすっごーい(意地悪で)素敵な笑顔を顔に刻み込んだ。


「フライパンじゃがのう?」

「……蹴飛ばそうか?」

「む。ジャパンも食えんか……」

「そう言う問題じゃない……、もう良いよ」


 雅治のお兄ちゃんに言うだけ無駄だもん。菜摘、それは俺を馬鹿にしちょるじゃろ。してるしてる!
 だいたい何で謎々なんて出してきたんだよー。机に伏せる私の頭を雅治のお兄ちゃんが撫でる。む、無駄に大人ぶりやがって。


「菜摘の馬鹿を再確認しちょるだけぜよ」

「いーぜ雅治のお兄ちゃん。今すぐ玄関先に出な。お前のペテン今から暴き倒す……!」

「それはご勘弁してくんしゃい」


 そう言う雅治のお兄ちゃんは笑みを絶やさない。
 て、いうか此処私の家(下宿先)なんだけどなあ。部活が終わって帰ってきたら、いつもなら暗い部屋に電気が点いてて驚いて。泥棒かな、なんて思って部屋に入ったらペテン師がいた。泥棒の方がマシだ、……冗談でも言えないけど、直感的にそう感じた。
 部活は?って聞いたら、明日はないぜよ、だってさ。帰れよ。


「……元気みたいやの」

「んえ?」

「心配じゃきん来たがや……、無用みたいじゃのう」


 え、心配?
 雅治のお兄ちゃんはいっつも変なのだ。いきなり私の顔を見に来たら、すぐどっかに行く。雅治のお兄ちゃんのお家にお世話になってたときからそうだった。それも、いつも私が落ち込んでいるタイミングばかり。慰めてよ馬鹿!なんて思ったこともあったけど、実は近くでシャボン玉吹かしてたのを知っていたりする。
 確かに最近私は落ち込んでいた。ホームシックなんて笑える。今凄く幸せなのになあ。ホームシックと幸せの板挟みで気分が滅入っている時期に来た来訪者。まあ、ムカつく謎々を除けば多少緩和され、るはず。


「雅治のお兄ちゃん、その……どうして分かったの?」

「ん?」

「私が落ち込んでたの」

「それは……プリッ」


 変な効果音が、何かのスイッチに見えた。雅治のお兄ちゃんは再び笑顔を携え、私の瞳をのぞき込んでくる。昔から見た目だけ良いお兄ちゃんに見つめられ、反射的に胸が躍ってしまった。
 問題じゃ、菜摘。
 いやなんでこのタイミングで?そんな私の疑問にお構いなしといった様子の雅治のお兄ちゃんは、笑った。


「そこにあるのに見えないものなんだ?



 ……は?自分で考えんしゃい。
 そんな私の反応に満足したのか、雅治のお兄ちゃんはいつも通りシャボン玉を吹かし始めた。って、帰る気ないのか。


――――
title by「金髪少年」
答えは絆、といいたい臭い仁王くんでした。
土佐弁って難しいですね。方言ってイメージ通りに行かないし混迷しますね……備後弁混じってませんよ、ね…?


130703

 

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