テニプリ
□痣
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※財前光視点
消えない傷痕、俗世間で言う痣は見ている方が痛々しい気持ちになる。赤紫に内出血して、腫れ上がり、少し触れるだけで激痛が起こる。鬱血なんて言葉に表す人もいるが、俺からしたら痣は痣だ。
そんな痣を憎らしげに見つめる後輩、菜摘は目尻に涙を溜めて小さく唸る。全く、プライドが邪魔して痛いの一言も言えないのか。
「マゾやろ、自分」
「んなわけないじゃん…!」
「はあ。……んで、どうやってそんな痣出来たんや」
俺の言葉に菜摘は視線を俺にあげる。気恥ずかしげに瞳は揺れ、眩い光彩を放っていた。
ボール、踏んだの。
その一言に俺はもちろん、腹を抱えて静かに笑った。なるほど、ボール踏んだんやな。意地悪げに笑みを湛(たた)えれば、菜摘は俺をじと目で睨みつける。
「頑張って痛い言わんのは立派やなあ。でもな、菜摘のドジはドジやで」
「うるさい、バカ!意地悪!」
「褒め言葉や」
まるで猿の威嚇や。夏の暑さで真っ赤なほっぺを更に染め上げ、怒りに任せ罵倒してくる。馬鹿!やら、阿呆!やら。ほんま生意気な後輩や。…俺が言えた義理はないんやけど。
手貸そか?けっこう!
財前の馬鹿!最後の決め台詞のようで、菜摘はラケットを杖代わりに立ち上がり、俺に背を向けて歩き出す。ヒョコヒョコ痛そうに。
「……馬鹿はお前やろ」
「いっ!」
俺はわざと菜摘が痣のある脛骨、俗世間一般に知られる弁慶の泣き所目掛け、ラケットを勢いよく振った。怪我してなくても痛い場所ということもあり、もちろん菜摘は涙を目尻にためしゃがみ込んだ。
「痛い、じゃん、財前…!」
「そら手加減しとらんからな」
「オサムちゃん、もうこいつ嫌だぁ…」
出張で席を外しているオサムちゃんに助けを求めるところ、またまだガキだと思う。せめて部長とかにすればいいものを。
俺はため息を吐き出し、菜摘の腕を掴んで無理矢理膝の裏に腕を回した。
アホやろ、自分。湿布せえや。はあ!?下ろせバカ!
低レベルな争いだと誰もがみな思うだろう。…菜摘的には、お姫さま抱っこされてるこっぱずかしい光景なんやけど。
「しくしく…」
「なんや、今更しおらしゅうして」
「もうお嫁にいけない…」
「アホやろ」
俺はベンチ目掛けのんびりと歩き出す。距離は、ゆっくり短くなる。なのに。言葉だけは。
「痣残って嫁行かれへん方が、最悪やろ」
――――
財前は優しいといいなぁ
八月に書いたネタでした
140501