テニプリ

□痣
1ページ/1ページ

※財前光視点

 消えない傷痕、俗世間で言う痣は見ている方が痛々しい気持ちになる。赤紫に内出血して、腫れ上がり、少し触れるだけで激痛が起こる。鬱血なんて言葉に表す人もいるが、俺からしたら痣は痣だ。
 そんな痣を憎らしげに見つめる後輩、菜摘は目尻に涙を溜めて小さく唸る。全く、プライドが邪魔して痛いの一言も言えないのか。


「マゾやろ、自分」

「んなわけないじゃん…!」

「はあ。……んで、どうやってそんな痣出来たんや」


 俺の言葉に菜摘は視線を俺にあげる。気恥ずかしげに瞳は揺れ、眩い光彩を放っていた。
 ボール、踏んだの。
 その一言に俺はもちろん、腹を抱えて静かに笑った。なるほど、ボール踏んだんやな。意地悪げに笑みを湛(たた)えれば、菜摘は俺をじと目で睨みつける。


「頑張って痛い言わんのは立派やなあ。でもな、菜摘のドジはドジやで」

「うるさい、バカ!意地悪!」

「褒め言葉や」


 まるで猿の威嚇や。夏の暑さで真っ赤なほっぺを更に染め上げ、怒りに任せ罵倒してくる。馬鹿!やら、阿呆!やら。ほんま生意気な後輩や。…俺が言えた義理はないんやけど。
 手貸そか?けっこう!
 財前の馬鹿!最後の決め台詞のようで、菜摘はラケットを杖代わりに立ち上がり、俺に背を向けて歩き出す。ヒョコヒョコ痛そうに。


「……馬鹿はお前やろ」

「いっ!」


 俺はわざと菜摘が痣のある脛骨、俗世間一般に知られる弁慶の泣き所目掛け、ラケットを勢いよく振った。怪我してなくても痛い場所ということもあり、もちろん菜摘は涙を目尻にためしゃがみ込んだ。


「痛い、じゃん、財前…!」

「そら手加減しとらんからな」

「オサムちゃん、もうこいつ嫌だぁ…」


 出張で席を外しているオサムちゃんに助けを求めるところ、またまだガキだと思う。せめて部長とかにすればいいものを。
 俺はため息を吐き出し、菜摘の腕を掴んで無理矢理膝の裏に腕を回した。
 アホやろ、自分。湿布せえや。はあ!?下ろせバカ!
 低レベルな争いだと誰もがみな思うだろう。…菜摘的には、お姫さま抱っこされてるこっぱずかしい光景なんやけど。


「しくしく…」

「なんや、今更しおらしゅうして」

「もうお嫁にいけない…」

「アホやろ」


 俺はベンチ目掛けのんびりと歩き出す。距離は、ゆっくり短くなる。なのに。言葉だけは。


「痣残って嫁行かれへん方が、最悪やろ」



――――
財前は優しいといいなぁ
八月に書いたネタでした

140501

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ