テニプリ

□溶けて消える
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※財前のほぼ一人語り

胸が痛い。
全身の血流が痛い。
臓器が痛い。
腱や筋肉も痛い。
脳の中も痛い。
脊椎さえーー悲鳴を上げる。
このままでは。
…かれこれ二週間ほど、原因不明の痛みが俺を襲っていた。喉がからからだ。水分が足りない。数秒前に飲んだというのに、まるで水分など存在しなかったかの如く、喉が渇いていた。
それもこれも、菜摘と試合してからや。
責任転嫁などではなく、もとから菜摘に責任の一旦はあるだろう。


「〜〜!!財前強い!完敗だよ!」
「…まあ、せやろ。俺、負けへんし。まだ菜摘も弱いからな」

わざと澄ました態度を取り、菜摘を挑発する。我ながらいい性格だ。ラケットをくるりと半回転させて、俺は菜摘を見下ろしながら賞賛を讃えた。
でもまあ、筋(スジ)はええんとちゃう?
その言葉に、小さな後輩は目を輝かせた。

「ほんとに?」
「おん」
「…!頑張れば、白石先輩にも勝てるかな?」
「そこは全国やろ。でもまあ、テニスの筋次第やろ」

何故白石部長なんだ。敢えて口に出さず溜め込んだ。
そんな俺のもやもやを知ってか知らずか、菜摘は大はしゃぎしていた。
そして、俺を見て満面の笑みを彩った。

「また、試合してね」



漫画やドラマのような世界は、ないのだ。ましてや、一目惚れなんて。ありえへん。
それから何回も試合をするようになったが、その間も胸が痛かった。
金ちゃんと大の仲良し言うて、菜摘はずっと金ちゃんと一緒にいる。
おんなじクラスやし、そういうこともあると言い聞かせながら。
…そこでふと、気付く。
『なんで気にしてんのか』、と。
そりゃもしかしたら、唯一の女の子やからかもしれん。頑張りすぎるところもあるし、すぐ気張るし、ちょこちょこ歩き回るし、すぐどっかにふらふら行くし…。と、とにかく、目が離せないのだ。
そう、言い聞かせている自分がいるのが現状や。
そんなある日、とある信号が大脳から飛び出した。

“なんでや。なんで、俺のそばにおらへんのや。”

…また溢れ出す痛み。心は痛みを叫んでは、また傷んでいく。
謙也さんのそばにおるときもムカつく。
部長のそばにおるときもムカつく。
誰のそばにいようとも、ムカついてしまう。
そんな俺に腹を立てては、吐き出しそうな毎日。
ラケットを握る力もいつか、怒りに変わってしまいそうな自分がいた。
どないすれば、ええんや。
吐き戻す。繰り返す。思い返す。
どうしたら、応えは却ってくるのか。
やまびこのように叫んで帰って来るような簡単なものじゃないことぐらいわかる。
わかっているのだ。
この感情の行き先さえ知れば、答えは明確になる。しかし、と思いとどまる。
そう、進みたくない思うとるのは、俺や。
気付いてはいけないと滓(おり)をつくったのは、俺じゃないか。
相反する感情が互いに警鐘を鳴らし合う。気づけ、気づくなと。
……いい加減にしてほしい。
このままでは倒れてしまいそうだ。

財前?大丈夫?

頭を抱え込むまで悩んでいた俺の前に、悩みの種である菜摘が現れる。どこか痛いのか、心配する目で此方を見て。
ーーああ、そうか。
俺はそこで、一つの道を見つけた。
悩みの、答えを。


「…菜摘…」


手首をやんわりと掌で包み込む。ああ、ああ。なんて、馬鹿なんだ。其れは誰に対しての嫌味か分からないが、ふいに脳内に響き渡った。
泣き出しそうになるほど、俺はこいつを。
地面を見つめたまま、俺は見出した活路を指でなぞり上げた。


「凄く、いたい」


君と溶け合いたいほど。
これは狂気の沙汰に相違ない。



−−−−−−
なんて、ね。


140501

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