青の太陽
□序章
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『あくま?』
『そうだ、悪魔だ』
捺佳はこてんと小首を傾げた。年端もいかぬ――ましてやつい最近物書きが出きるようになった――少女には、まるで別世界の言葉のように聞こえた。
そんな少女の頭を、藤本獅郎は優しく撫でた。
『あくまさんが、なんでこわいの?』
『……捺佳は雪男と燐のこと、好きかい?』
質問に明確な回答もせず、獅郎は質問返しをした。納得のいかないような顔をし、捺佳は頬に空気を溜め込んだ。が、少女らしく素直に答えた。
『うん、だいすき!』
『そうか、』
薄く張ったような笑みとはまさにこのことだろう。獅郎は捺佳の頭を撫でながら、悲しげに小さな笑みを張った。
『捺佳』
『んー?』
気持ちよさそうに目を細める捺佳を抱きかかえ、今度はぽふぽふと背中をテンポを刻みながら叩いてやる。
『悪魔はな、いつか燐と雪男と……泣かしに来るんだ』
『なかしに……?』
『そうだ。今はな、雪男だけが泣いてるが、いつか燐も泣くだろうな』
泣かしに。とは我ながら笑えぬジョークだと思う。しかし、年端もいかぬ捺佳に、ましてや綺麗な捺佳に、獅郎は真実を語ることを躊躇った。
「燐は悪魔だけど雪男は人間。でも2人とも危険だ、殺される」。簡単に聞こえて簡単には言えない台詞だ。
獅郎は捺佳の背中を叩きながら、優しいテノールボイスでそっと囁いた。
『お前が大きくなったら、捺佳、2人を守ってやれ』
『まもる……? まもるって、なにからまもるの?』
捺佳は閉じかけの瞼を擦りながら、獅郎に問い掛けた。
――ごめんな、捺佳。
獅郎はこれから小さな少女に重荷を背負わすのだ。
何から守る? 悪魔か? サタンか? 祓魔師か? ――いや。
『そうだな』
捺佳なら大丈夫だ、と心の奥で臆病に笑う自分が語りかける。捺佳と向き合って、獅郎は捺佳と自らのおでこをくっつけた。
『全部、だ』
prologue
→了