禁忌の恋
□悠久
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儀式の日。夢女を見た時、一目惚れしたのだろう。龍神として生きて初めて。我は人を愛せない、ずっとそう思っていたのに。
我は裏切られて、殺されて。愛していた人に。だから、信用出来ない。心を許せない。
いつも通り、さっさと終わらせてしまおうとしたのに…。
(神門…!)
夢女は男の名を叫んでいた。恐怖で声は出ていなかったが、確実に。羨ましかった。こんな状況でも好いている者の名を告げられることが。愛せる者がいることが。
絶好の機会だと思った。もう、力を使い続けて、望まない交わりを持つなどと。だから、利用した。
夢女の想いを理由に誓約の破棄を宣言した。この少女が気にかかったが、滅ぼさなければならない。だが、つい、様子を見てしまった。
絶望した。多少時間を遡って、見た『神門』とやらを。彼自身にではない。彼と老婆との間に交わされた真実にだ。二人は利用されて、意図的に殺されると。
見ていられなかった。すぐに、村を燃やす瞬間へ飛んだ。
背中から神門の想いが突き刺さった。強い、強く願い想う祈りが。我としたことが、情が湧いたのかもしれない。
傍らに転がっているのは虫の息で命をこの世に繋ぎとめている、元生贄。我のもとに来た時とは打って変わって、みすぼらしい姿。それでも、美貌は変わらぬとは…皮肉だな。
この姿で一体、何日放置されたんだ?
あの老婆らのせいでこうなったのか。心が軋む。過去を、思い出しそうになる。
「汝は死を望むか」
せめてもの、罪滅ぼし。汝は何も悪くはないのに。夢女が望んだのは死。村人の恨みを背負って逝こうというのだ。だがそれでは我の納得がいかぬ。この娘は地獄へ堕ちるだろうからな。彼の閻魔に渡すには惜しい。なら、こうすればいい。
「汝の美貌と純粋な想いに免じて、魂だけは我が救ってやろう」
まあ、聞こえてないだろう。ああ、聞こえてるか。汝は男を助けてくれと申すとな。あの神門を。だが、我は迷う。
神門を共にさせれば、愛を生むだろう。そうすれば、今この記憶は暴走する。纏わりついて、苦しませる。我がそうであった様に。ならば、新たな誓約を与えよう。神門さえ破らなければ良い。その時は…。
我は孤独に生きて、生かされて。数千年はもう飽きた。そろそろ、世代交代だろうか。
「我もそろそろ疲れた。この身を譲ってやろう」
もちろん、ただではないが。この身体を貰う。我も精神が朽ちる前に眠るとしよう。後は汝が好きにするがいい。すべては汝の美あってこそだが。
魂も美しい汝は、美味そうだ。彷徨っている望みの魂も拾って、飲み下す。ああ、極上の晩賛だ。こんな最後は贅沢だ。次は、汝が我を目覚めさせるのだろうか。
その時まで、待ってるぞ。
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