(NL)
□背伸びをしても届かない
1ページ/4ページ
何度、
大人になりたいと思ったんだろう。
あの人からしたら、
年齢も精神的にも、私はこども過ぎて。
背伸びをしても届かない。
「よいしょっ...」
中央図書館にいる桜乃は、読みたい本を探していた。
桜乃が探している本は、学校の図書館で探しても、見付からなかった物だ。
家からは遠い場所だが、電車で行けば結構早く着く。
慣れないパソコンで検索し、その本が何処に置いてあるのか調べる。
そして、やっと見付けた。
...のはいいが。
探し物は、本棚の一番上の棚にあり、桜乃の身長では届かない。思いっ切り手を伸ばしても、全く届く気配もない。
「っ...!」
つま先ギリギリで立ち、本棚に倒れる様にして手を伸ばしても、やはり届かない。
「届....かない」
「どうした、桜乃。」
桜乃が涙目になり、どうしようかと考えていた時だった。後ろから声が聞こえ、振り向く。
実は、桜乃がこの図書館に来た理由は、本探しの目的の他に、別の用事があったからだ。
その用事は。
「!柳先輩!!」
「この本が読みたいのか。」
そう言って柳は、桜乃が頑張っても届かなかった、本棚の一番上にある一冊の本を、意図も簡単に手に取り、渡す。
「ありがとうございます!」
「フッ...どういたしまして。」
桜乃の嬉しそうな笑顔に、柳は微笑み、頭を撫でる。
この日、立海は柿ノ木中との練習試合があった。久しぶりに東京に来たのだからと、試合が終わった後、柳はこの図書館で、桜乃と会う約束をしていたのだ。
「学校は大変か?」
本を借り、話をする為、一旦外に出る。
近くに設置されているベンチに座り、本を開くと柳が問い掛けてきた。
「ううん、楽しいです」
「そうか。何よりだ。」
柳が本に視線を落とすと、自然に桜乃は空へと目を向ける。
すると、淡いピンク色が目に入り、桜乃はそれに目を奪われる。
「綺麗...」
桜乃が声を漏らすと、柳が本を閉じた。
「桜....か。」
柳は落ちて来る桜の花びらを、空中で手で掬う。
そしてそれを桜乃の髪の毛へと持っていく。
「もう既に、頭に沢山、桜の花びらが乗っているが...お前は桜が似合うな。」
「え!?名前に“桜“が入ってるからじゃないですか!?私にこんな綺麗な花、似合わな...」
「いや。似合っている。綺麗だ、桜乃。」
似合わない。
桜乃の否定の言葉は、柳の口付けによって阻止された。
.