(NL)

□背伸びをしても届かない
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何度、
大人になりたいと思ったんだろう。


あの人からしたら、
年齢も精神的にも、私はこども過ぎて。



背伸びをしても届かない。




「よいしょっ...」


中央図書館にいる桜乃は、読みたい本を探していた。

桜乃が探している本は、学校の図書館で探しても、見付からなかった物だ。

家からは遠い場所だが、電車で行けば結構早く着く。


慣れないパソコンで検索し、その本が何処に置いてあるのか調べる。

そして、やっと見付けた。


...のはいいが。


探し物は、本棚の一番上の棚にあり、桜乃の身長では届かない。思いっ切り手を伸ばしても、全く届く気配もない。



「っ...!」


つま先ギリギリで立ち、本棚に倒れる様にして手を伸ばしても、やはり届かない。


「届....かない」


「どうした、桜乃。」



桜乃が涙目になり、どうしようかと考えていた時だった。後ろから声が聞こえ、振り向く。



実は、桜乃がこの図書館に来た理由は、本探しの目的の他に、別の用事があったからだ。


その用事は。



「!柳先輩!!」


「この本が読みたいのか。」



そう言って柳は、桜乃が頑張っても届かなかった、本棚の一番上にある一冊の本を、意図も簡単に手に取り、渡す。



「ありがとうございます!」


「フッ...どういたしまして。」



桜乃の嬉しそうな笑顔に、柳は微笑み、頭を撫でる。


この日、立海は柿ノ木中との練習試合があった。久しぶりに東京に来たのだからと、試合が終わった後、柳はこの図書館で、桜乃と会う約束をしていたのだ。




「学校は大変か?」



本を借り、話をする為、一旦外に出る。
近くに設置されているベンチに座り、本を開くと柳が問い掛けてきた。


「ううん、楽しいです」


「そうか。何よりだ。」



柳が本に視線を落とすと、自然に桜乃は空へと目を向ける。

すると、淡いピンク色が目に入り、桜乃はそれに目を奪われる。


「綺麗...」


桜乃が声を漏らすと、柳が本を閉じた。


「桜....か。」



柳は落ちて来る桜の花びらを、空中で手で掬う。


そしてそれを桜乃の髪の毛へと持っていく。


「もう既に、頭に沢山、桜の花びらが乗っているが...お前は桜が似合うな。」


「え!?名前に“桜“が入ってるからじゃないですか!?私にこんな綺麗な花、似合わな...」


「いや。似合っている。綺麗だ、桜乃。」



似合わない。



桜乃の否定の言葉は、柳の口付けによって阻止された。



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