上から君が降ってきた。
□四
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「さっき、とってもいい子に会ったんだよ!」
おねね様がいつも贔屓にしている団子屋に大量の菓子を頼んだとかで、荷物持ちをしてほしいと言われた俺は少し遅れて団子屋に到着した。茶を飲みながら俺を待っていたおねね様は俺が来るなり、嬉しそうに話しだし、冒頭の言葉を言った。
なんでも、さっきこの店の看板娘とおねね様が悪漢に絡まれたらしい。俺が居たらおねね様にそんな奴らは近付けなかったのに、と思いつつ耳を傾けていると、その場に居合わせていた旅の女が悪漢を諌めたのだと言う。利口な馬と一緒だったその女……俺にはなんだか心当たりがある気がした。おねね様によればその女は名前も言わず自分の代金だけきっちり払って立ち去ったらしい。
気がつけば、俺はおねね様にその女の容姿を問い掛けていた。
「おや、清正。その子に心当たりがあるの?」
確信はありませんが…と伝えると、おねね様は先程よりも嬉しそうな表情をして俺を見た。
「あたし、うっかりしててね。その子にお礼するの忘れちゃって。清正、その子を探すの手伝ってくれない?」
「…俺が、ですか?…構いませんが、菓子は…」
「うん。一度お店に預けさせてもらうから大丈夫だよ!そのお話も済ませてあるし」
おねね様は笑顔のまま、店の看板娘を見遣った。看板娘は苦笑しながら頷いている。確かに了承済みのようだ。
…まぁ、おねね様の頼みとあれば仕方がない。元より断る理由なんか俺には存在しない。しかしおねね様が思い浮かべている人物と俺が思い浮かべている人物は同じなのだろうか。違っていたら効率悪いな、と思っていたら道がどよめき始めた。なんだ、と往来を見ると一頭の蔵付き馬が忙しなく歩き回っている。
あの馬は…アイツの。
ポツリと呟いたら、おねね様が驚いたように声を上げる。どうやらこの馬は先程おねね様や看板娘を悪漢から助けた人物の馬のようだ。
ああ、確信した、アイツか。
桜の時といい今といい、アイツとはなんだか縁があるな、と思っていたら馬が俺に気がついたらしくこちらへやってきた。
「あら、どうしたの?なんだか落ち着かないね」
おねね様が心配そうに馬に声を掛ける。馬は小さく鳴きながらおねね様に何かを訴えている。おねね様は宥めるように馬の頬を撫でている。
「…お前、主人はどうした?」
俺が尋ねると、馬はおねね様から俺に対象を変えたらしい。今度は俺に何かを訴える仕草を見せる。もしかしてアイツが何か危険な目に遭っているのか。そう思い馬を見つめると、待ちきれないといったように俺の袖に噛みついて引っ張ってきた。成程、来いってことか。
俺はおねね様にコイツの主人を連れてきます、と告げると馬の後に続いた。