上から君が降ってきた。

□七
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甲斐姫さんに会った日はとりあえずもう出歩かない方が見つからんだろうと思い、宿に戻った。

一室にて土産に買った巾着袋を並べる。相変わらず質素な風だけどやっぱり刺繍が綺麗だ。誰かの手によって一生懸命作られたものはどんなものでも素敵だと思う。三色買ったから、姫さんと殿と、不本意だが上官にもあげるか。姫さんも殿もこういうの結構好きだった筈だ。きっと喜んでくれる。




「…なんぞ言伝でも?」


巾着袋を見ながら独りごとのように呟く。部屋の中には誰もいない。けれども上にはいるようだ。天井がギシリと揺れた。巾着を手にとって眺めていると声が聞こえた。


「あんたがきちんと休んでるか見て来いだとさ」

「…信用ないな」

「まったくだ。こっちも休み中の仲間の様子見に駆り出されるとは思わなかった」

「そりゃ、御苦労さんで」


巾着を置いて壁に寄り掛かる。襖を開けて夜闇の外を眺めれば未だ明日の祭りに向けて準備をしている町民がいる。昼間と変わらず賑やかだけど、日が暮れただけで雰囲気が変わる。落ち着いたような、そんな感じだ。だけど明日の祭りは落ち着いた雰囲気なんて皆無だろう。勿論、いい意味でだけど。


私は襖をそのままに壁へと寄り掛かる。そして、懐から煙管を取り出し銜えた。火を付けて紫煙を吐きだすといい香りが漂う。


「…あちらじゃ吸わないのにな」

「仕事してるからね」

「吸い過ぎるなよ」

「分かってるってば。…ところで言伝は?」

「今日は様子見だって言っただろう」

「嘘つくなよ。なんか情報あるんでしょうに」


コイツが私の所に来る時は大抵何かしらの情報を持ってくる。多分、何かしらのネタがないと落ち着かないんだと思う。流石、情報専門の忍は違うねぇ。

私がニヤリと口端を上げる。忍は相変わらず姿は現さないけど呆れたような溜息を漏らした。けれども、何処か楽しんでいるようにも思えた。溜息が気になったから首を傾げると忍はくつくつ笑いだした。


「…この祭りに各国の諸将が集められていることは知っているか」

「ああ…成田さん家のお姫さんが来てたからね」

「それに、土佐の主も来ている」

「…え?」


煙管を口から放して目を丸くする。予想通りの反応が嬉しかったのか、忍は満足そうに喉を鳴らして去った。

言い逃げかあの野郎。どうもうちの者は性質が悪いように思える。まぁ、殿と姫さんがのほほんとしているから、私らの性質が悪いくらいで丁度いいのかもしれないが。


それにしても土佐の主が来てるってことは、殿が色々忙しなく働いているのかしら。こちらで祭りがあるのなら私も無理にでも休みを返上して働いたのに。…あの人達私がちゃんと休めるように祭りのこと黙ってたんだな…本当に気を遣ってくれちゃってもう。


煙管を銜えながらやれやれと後頭部を掻いた。帰る時は土佐の主と一緒に行こうかな。久しぶりに会いたいし。

ああでも主は恐らく大阪城に登城してるはずだから、なかなか会えないかも。……おねね様か虎之助さんに会えば私も城の中に行けるんだろうが…うむ、どうしよう。




たまには黙々考える。




「よし。明日の祭りで虎之助さんとおねね様に会えたら、城にお邪魔して主と一緒に帰ろう。会わなかったら祭りを適当に見て大阪見物はおしまい。京に移動する」


よしきたこれでいこう。私は一人で何度か頷いて、腕を組んだ。


―――――
土佐の主って、奴しかいませんな。
鳴さんはお休みの日は大層怠けてますが仕事はきっちりこなします。オンとオフがちゃんと出来る人だといい。




 

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