戦国短編

□近いからこそ気が付けぬ。
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年上のアイツは姉御肌で、いつも皆を引っ張っていく。幼い頃から三成や正則と俺と、そしてアイツで行動を共にしていた。

たった二つ年上だというのにアイツはどこまでも俺達の姉貴分で、どこまでも連れて行ってくれた。アイツといたら、俺達はどこまでも安心なのだろう。少なくとも俺はそう思っている。今でも、ずっと。

だが、歳を重ねるにつれ俺はアイツを別の目で見るようになっていた。アイツに縁談がきたら苛立ちそうになるほど気になるし、アイツが男と挨拶しているだけで気が立つ。要するに、俺は女としてアイツを見始めている。頼りになる姉という存在から、一人の女へと。



「…清正、大丈夫?顔真っ赤。もう、どうしてこんなになるまで放っておいたのよ」


枕もとで鳴が呆れた顔をしている。俺はというと、その表情を下から見上げている状態だ。今朝方から妙なかったるさを感じつつやり過ごしていたら、三成に顔が赤いと指摘され、すぐ傍にいた鳴によって部屋に連れ戻された。医者によって額の熱さを確認された俺は結局横になる羽目になったのだ。

…が、どうも落ち着かない。理由は分かっている。彼女が傍にいるからだ。幼い頃ならまだしも、彼女を女と認識し始めてからは二人きりだとどうにもむず痒い。

いつもなら、まだ平気だ。初めこそ戸惑っても次第に慣れてくる。だが今日は、困る。体調が悪いおかげで内面も酷く波打っているのだ。このままでは、何かまずいことを言ってしまったりしてしまいそうな気がする。

俺は鳴から目を逸らすと掛け布団を少し引き寄せる。鳴は手ぬぐいを水桶に浸して絞ると俺の額にそっと乗せてきた。その時、再び彼女の手が俺の額に触れて、心臓が大きく脈打った。咳をすることで同様をごまかした俺は彼女から視線を逸らしながら重たい口を開いた。


「……もう、いい。戻れよ」

「…戻れって。あのねぇ、私はねね様から貴方の看病を任されているのよ?」

「…俺が、いらないと言っていたと伝えれば、分かってくださるだろ…」

「清正」


ふいに鳴の声が低くなった。内心何故か、しまった、と思った俺だったがそれは当たったようだ。彼女に視線を戻すと、眉を吊り上げて俺を見ていた。


「まったく、いつも思っていたんだけど貴方は一人で抱え込みすぎよ。三成もそうだけど、貴方は特に酷い」

「…三成よりは、マシだろ」

「黙りなさい。今日は清正の方が酷いわ」


今日はって。


色々言い返したいことはあるが…駄目だ。今は何をするにもかったるい。俺は大きな溜息を吐くと額の手ぬぐいに触れる。もう温くなりはじめているそれに、己がどれほど熱い身体をしているのか理解する。先程医者に診てもらった時は流行り風邪だと言われたが、まさかここまでとは。

秀吉様やおねね様に心配を掛けないよう、早く治さないとな。目を閉じて再び息を吐くと手ぬぐいがすっと奪われる。鳴が奪ったのだ。

彼女は再び水桶に手ぬぐいを浸すと絞り、また俺の額へと戻した。彼女の顔を黙って見てみる。眉はもうつり上がってはいなかった。




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