戦国短編
□新年会
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「官兵衛殿一つ聞きたいんだけど」
「なんだ」
「あの大惨事は何」
新年会の場。隣で静かに飲んでる官兵衛殿に私は尋ねた。目の前に大惨事が広がっている中、官兵衛殿はいつも通りの調子でこう話した。
「酒に呑まれた諸将が暴れているな」
「うん。そうだね。事実をありのままに語らなくていいよ」
「卿が尋ねてきたのだろう。『あの大惨事は何か』と」
そうだけどよ。
「時に軍師殿、このような場合はどんな対応を?」
「この手の火種は放っておくに限る。」
「ようは面倒だから関わりたくないんだね」
「卿も同じだろう」
「当然」
絶対に勘弁だ。ただでさえ戦で勇猛果敢な諸将が宴席でも勇猛果敢じゃあなんか色々勘弁だ。ちなみに騒いでいるのは正則・清正の子飼い組と秀吉様、そして諸国からわざわざ遊びに来られた宗茂の奥様・ギン千代さん。あと、女の子は稲と甲斐。誰だ彼らにあんな飲ませたのは。
とか思っていたら背後から何か振り下ろされた。官兵衛殿との間に丁度下ろされたので、かろうじて避けることが出来たがなんだこの野郎誰だ。箸でデコ刺したろかと振り返れば子飼いの一人・三成が立っていた。
いや、訂正だ。倒れ込んできた。
「おい…まさかお前もか」
「いや、何がだよ。ていうかこっちの台詞だわ。あんたも酔ってんのか」
「お前も線の細い俺のような綺麗所は嫌だと抜かすのか!」
えええぇー…
「…そうか、酔っているんだね三成。さぁほら、あっちに寝転がれる場所があるから座布団枕にしておやすみなさい」
「お前も一緒に来いー」
「ふざけんな誰が鉄扇振り下ろしてきた奴と一緒に休むか。一歩間違えたら血の宴席になるところだ」
「それは貴様が顔色の悪い軍師と飲み明かそうとしたからだ」
「いや、さっき俺が綺麗所なのが云々って言ってただろ。それとさっき突っ込み忘れたが自分のこと綺麗って言うなよなんか気持ち悪い」
「そんなことを言われたらいくら義と愛を持つ俺でも、泣くぞ」
兼続か。
「泣くぞってもう涙目じゃないか。あーもう。ほら、あっちでちょっと休んでなよ」
「そう言ってお前は他の男の元へゆくのだろー!?」
「呂律が気持ち悪いわ。つーかさっきからなんで私が君とちょっとイイ仲みたいな話になっているのだろう?」
キリがないので三成を引きずって寝転がれる場所へ放置。無駄に暴れようとするので左近を呼んでなんとかしろとだけ告げて官兵衛殿の元へ戻ってきた。なんなんだ、本当に。三成ってお酒弱かったっけ。あんなに酔うなんて私知らなかった。
それにしても官兵衛殿、あんた面白いくらい無関心だな。三成に鉄扇振り下ろされた時、君も危なかったろうに。興味がないのか、そうなのか。ちょっとくらい反応しろい、と言ったら卿も酔っているのか、と言われた。酔ってません。少なくとも三成とあっちで大惨事起こしてる子たちよりは。
遠巻きに大惨事を眺めれば眺めるほど、混沌としとる。秀吉様は酔ってへべれけ状態になってるギン千代奥様にちょっかい出して、しかもギン千代様酔いに任せて秀吉様の胸倉掴んでるし。傍にいるおねね様も秀吉様が浮気してると怒ってる。女の子達は何故もてないのだろう…ということについて延々と話しあってるし。普段勇ましいだけに不気味だ。
子飼い組は何してんだ。ああ、定番の酒一気飲みか。やめとけよ、そんな上半身素っ裸なんて。おねね様気付いてあげて。お宅のお子さん大変なことになってますよ。とか考えてたら、正則の目がこっちに向いた。
嫌な予感がする。
「なーに見てんだゴラァァァ!!」
「あーこの漬物美味しいなー」
「卿を呼んでいるのではないのか」
「そんなわけないよ文句だよあれは。こっち見んなっていう文句。もし呼んだとしても私じゃない。官兵衛殿だ」
「たった今、あの大惨事に目を向けていたのは卿だろう。私はあちらなどに興味はない」
「あんたとことん無関心だな!軍師ならあの大惨事を止める策を練ってくれ」
「興味がない」
「二回目か、大事なことだから二回言ったのか」
畜生役に立たねぇな官兵衛この野郎。私だって行きたくないんだよ、物凄く行きたくないんだよ。だから無視しようってのにオイ、何故私の肩に手が置かれているんだ。首を横に回して手を見てみる。
「…官兵衛殿いつの間に血の気が良くなったの」
「卿も相当に酔っているな。生憎その手は私のものではない」
「……。」
「捕まえたぜぇぇぇ!!」
正則、お前…
「ちょっと待って捕まえたってなに、ちょ、引っ張るなぁぁぁぁ!」
「いいじゃんか〜お前もあっちで飲もうぜー!!」
「いやいやいいよ此処で!ちょ、官兵衛殿手ェ貸して!」
「この漬物は美味だ…」
「この幽霊軍師がぁぁぁぁぁぁ…」
畜生官兵衛この野郎!本当に役に立ちやがらねェ!生きて帰ったら顔色良くなるように鷹の爪入り生姜緑茶出してやる!これで顔色も良くなるだろわはははは……ちくしょう。