お医者様と魏軍の皆様。

□四、お医者様と不良軍師その2
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「やぁ翆榔殿」

「諸悪の根源だこんにちは」

「はは、随分とご機嫌斜めだね」


仕事を一休みしていたのだろう。庭の大木の根元に座り込んでいる翆榔に郭嘉は話しかけた。すると、彼女は威嚇するような表情と言葉を彼に投げつけたのだった。

郭嘉は悪意のある翆榔の言葉に動じることなく、笑顔を浮かべる。


「どうしたのかな、こんなところに座り込んで。疲れているのなら、私の部屋で一休みしたらどうだろう?」

「もう此処で一休みしているんでいいですー。それよりも私の疲れは8割くらい郭嘉殿のせいですー」

「おや…それはいけないね。私の何が、貴女を疲れさせてしまったのかな?」


うやうやしい態度で隣に片膝をついた郭嘉に彼女は鬱陶しそうな顔をする。郭嘉はまったく気にしなかった。それどころか、翆榔の手にそっと触れてきたのだ。労わるような手つきが嫌なのか、彼女はパッと手を引いてそっぽを向いた。


「翆榔殿?」

「郭嘉殿みたいなスケコマシはいつか麗しいお姉さま方に刺されますよーだ」

「どうしたの、急に」

「郭嘉殿にご執心のお姉さま方から嫉妬の嵐を向けられて鬱陶しいんですー」


凶悪な顔をして拳を作った翆榔はそのまま大木の幹を殴りつけた。それなりの衝撃だったのだろう。幹は痛々しそうに軋んだ。上にいた数羽の雀が驚いて飛び去っていく。そのまま彼方へ羽ばたいていく雀を見送りながら、郭嘉は思った。彼女の拳はまともに受けない方がいいと。

郭嘉は苦笑すると、彼女に向き直る。


「私の取り巻きが、貴女に危害を加えている。そういうことでいいかな」

「はい。まぁ別にどうにかしてほしいわけじゃないんですが」


溜息をついて言った彼女に郭嘉は首を傾げる。


「翆榔殿にとって嫉妬の眼差しは不快では?なくしたいとは思わないのかな?」

「無きゃあ無いでいいです。その方が私の心は安らかです。…でも、嫉妬なんて向けられたことなかったんで面白いんですよねぇ…恋心を抱いた人がどんな風になるのかと」

「…意外と捻くれた考えも持っているんだね、翆榔殿は」

「えー。口に出すだけいいでしょ。本当に捻くれてる人って胸の内に潜めてにこにこしてる郭嘉殿みたいな人を言うのではー?」




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