三國短編
□何してんの、子上と元姫
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「……何してんの?」
子上の部屋に書簡を届けに来たら、怒ってる元姫と不機嫌そうな子上、そして傍観している公閭がいた。また子上が怠けて元姫を怒らせたのだろうか。いや多分そうだな。何してんのと問い掛けたものの私はほぼ自分の中で確信を得たので書簡を子上の机の上に置いた。すると、子上が聞いてくれよ、と拗ねたように話し始めた。
「元姫の奴、俺には気遣ったりしないのに兄上は気遣うんだぜ。そういうのってひどいよな」
「だから、子元殿を特別扱いしているわけじゃないって言ってるでしょう!それに、子元殿はちゃんとやるべきことをしてるし、」
「俺だって最後には終わらせてるだろ?」
「それは、そうだけど……でも、子元殿は最初から真面目にやるべきことをやってる!」
「ほら、また兄上だ。悪かったな、めんどくさがりで」
「…っもう、だから!」
「あーあーもう二人共ちょっと落ち着いてよ」
このままじゃ堂々巡りだ。私はやれやれと溜息を吐きながら間に入る。なんで今来た私が間に入らないといけないんだ。公閭はどうした公閭は。ちら、と目を向ければ書簡を流し読みしていてもはや傍観すらしなくなっていた。面倒事には関わりたくないらしい。この野郎。
まぁ、今はひとまず落ち着かせないとな。
私はとりあえず子上から話すことにした。
「子上はなんでそんなにいじけてんの。」
「いじけてなんかいないって。ただ、元姫が子元殿はちゃんとやるのにって言うんだぜ?」
「ああ、つまり子元と比べられたから苛立ってるわけね?」
「……そういうわけじゃ」
「はいはいそうなのね。それで、元姫は?」
「…別に、比べているつもりは無かったけど……、ただ、その…子上殿はやれば出来るから」
「ちゃんとやってほしくて、つい子元はーって言ったんだね?」
「…ええ……ごめんなさい、子上殿。そういうつもりじゃなかったの」
「あ、いや……俺も悪かったよ。子供みたいに…その、」
二人は冷静になったようで、顔を見合わせて恥ずかしそうにしていた。まあ、ひとまずこれでいいかな。
「じゃ、落ち着いたところでこれをよろしく。急ぎらしいから仕上げたら子元に」
「げ、急ぎかよ…!兄上も人使いが荒い…」
「ちゃんとやってよね。お邪魔様ー」
用が済んだので私は子上の部屋を出た。背中に、子上と元姫の有難うという声が掛けられてひらひら片手を上げる。本当、手のかかる友人たちだ。
廊下を歩きながら、はぁ、と溜息をついた。二人が喧嘩して、私が仲裁に入って公閭が傍観する。すっかりこの状況が御馴染になってきたけれど、最近は少し辛い。仕方がないとは思っている。私は子上が好きだし、でも子上は元姫のことが好きなのだ。元姫も同じ気持ち。二人が両想いならそれでいいけれど、私は…。
いや、でも。
時間がそのうち解決してくれるだろう。私だって、いつかは誰かと結婚するわけで、そうしたらきっと、今日のことも懐かしいと思える日が来る。それまでの辛抱だ。いつになるかは分からないけど、時が経てばきっと落ち着く。その筈だ。
いつの間にかぎゅっと握っていた手を見つめる。思ったより力を込めていたようで、手が白い。
「……あ、」
困った。どういうわけか、手が開けない。なんだか指が固まって動けないのだ。溜息を吐きながら両の拳を見つめる。どうしてこんなに、頑ななんだか。