三國短編

□蔡文姫殿の護衛
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蔡文姫殿には七子という凄腕の護衛がいる。身体は小さいがすばしっこく、剣の腕も相当なそいつは女だ。話しかければ言葉を返すが自分からは話しかけてこない。無口で物静かな印象を与える雰囲気を常に纏っている彼女は、蔡文姫殿の前では感情を表に出すらしい。今も、そうだ。

「文姫、詩趣を求めて彷徨うなんてどうかしてる」

「あ、あの…彷徨っては…。歩いていただけです」

「似たようなもんだ。曹操殿が心配するから文くらい出せとあれほど言ったのに」

「ごめんなさい…うっかり忘れてしまっていて」

「そのうっかりに付き合わされた皆さんは疲れ切ってるんだけど」

反省しているのかと仁王立ちする彼女は勇ましい。七子は俺達にはあまりこういう話し方はしない。多分、蔡文姫殿ほど、親しくないからだろう。容赦なく叱り飛ばしている様子に俺と楽進が唖然としていると、見兼ねた夏候淵殿が仲裁に入った。無事だったんだしもういいだろうと窘めれば、彼女はようやく一息吐く。しかし諦めてはいないらしく、帰ったら続きだと口にした。その瞬間、蔡文姫殿はしゅんと肩を竦めていた。
ちょっと可哀想だと思ったが…まあ、蔡文姫殿が妙な奴らに拐されないように彼女は言っているんだから仕方がない。
気が済めば適当に切り上げるだろう。
ちなみに于禁殿は彼女が蔡文姫殿を叱ることは当然だと考えているようだ。おそらくだが、彼女が叱らないなら于禁殿が説教をしていたかもしれない。于禁殿の方が慣れてない分、怖いだろう。叱り役が彼女だったことがせめてもの救いだろうと思った。






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