吉継と童姫
□大谷吉継、童姫と友になる。
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辻斬りの疑いが晴れた数日後、吉継は戸田家の屋敷に来ていた。辻斬りの件に伊古奈が関わったことを確かめる為である。番所の者からは既に伊古奈姫のおかげだと聞かされていた。それでも、純粋無垢な伊古奈が下手人のお縄に貢献したと、俄かには信じがたい。だが、もし本当ならば礼と、色々と忠告をせねばならないだろう。友人の妹だからか、吉継は一目会った時から、どうも伊古奈を他人とは思えなくなっていた。
戸田の屋敷を訪ねると、勝成はお役目の最中で不在だった。故に出迎えたのは必然的に伊古奈になる。伊古奈は吉継が来てくれたことをとても喜んだ。彼女に居室まで案内され、二人向き合って座す。吉継は挨拶もそこそこに話し始めた。
「…先日、お前が言った通りになった」
「うん?」
「辻斬りの件だ。疑いが晴れた」
「そうなの。良かったねえ」
「お前が疑いを晴らしてくれたと聞いたが」
なんとなく話が流れそうな気がして、吉継は手早く本題に入る。伊古奈はこくりと頷いた。
「うん。私も疑いは晴らしたよ」
「…私『も』、ということは、他にも協力者がいると」
「うん。町の皆」
「……?」
「私は皆から聞いた話を、番所のお兄さん達に言っただけだよ」
うんうんと満足そうに頷いている伊古奈に吉継は暫し黙る。
つまり、町の皆が辻斬りについて話してくれたから、彼女はそれを聞いて番所の者に伝えただけ。礼を言うなら町民達に、と言いたいのだろう。疑いを晴らしたことに一役買ったが、決して自分だけの功ではない。吉継はすべてを説明しない彼女の言葉を自分なりに細くする。何も考えていないように見えて、案外賢くて、謙虚なのかもしれない。
彼は居住まいを正すと、伊古奈を真っ直ぐ見つめる。
「おかげで助かった。ありがとう」
「どういたしまして」
「…だが、あまり危ない話に首を突っ込まない方がいい。今回は良かったが、次は怪我では済まないかもしれん」
「うん…。それは成兄様にも言われちゃったから、気を付ける」
「そうしてくれ。勝成の妹に何かあっては、勝成が凄いことになるだろうからな」
「凄いこと?」
「ああ、凄いことだ」
吉継は大きく頷いた。彼の脳裏には、妹に危害を加えようとした者へ般若の顔を向ける勝成が浮かんでいる。普段飄々とした男だが妹のことになると凄い。落ち着いているように見えて物凄く溺愛しているのだから、彼女に何かあれば怒り狂うに違いない。そしてそれを宥めるのはとても面倒である。