吉継と童姫

□童姫、左近に相談する
1ページ/2ページ




雨で一部の堤が破損したものの、三成と左近がすぐに対処をした為に大事にはならなかった。
その後も順調に作業を行っていき、ついに堤は修復を完了するに至る。

三成、左近、吉継、伊古奈の四人と彼らの兵達は民衆と共に作業完了を喜んだ。お疲れ様、と口々に話している兵と民衆を見ながら、三成はある一点において、違和感を抱いていた。
吉継と伊古奈が、どうもよそよそしく見えるのである。
仲が悪いようには見えない。伊古奈がやんちゃなことをしようとすれば吉継はいつも通りやんわり制止している。けれども、それを聞いた時の伊古奈は素直に頷きながらも、吉継の様子を窺うような眼差しをするのだ。吉継はというと、そんな伊古奈から視線を外すことが多い。二人の雰囲気は明らかに、普段と違っていた。

いつからか、と遡れば、おそらく堤の一部が破損したあの雨の日が当て嵌まる。伊古奈を屋敷へ連れ帰った吉継は現場に戻ってきたが、どこか様子がおかしかった。理由を尋ねても、吉継は気にするようなことは何もないと言う。それよりも堤に集中しろと尤もなことを口にするので三成は口を閉ざすしかなかった。

仲が良すぎるのも見ていて不思議だったが、よそよそしいのもまた然り。

なんなのだこいつらは、と思いながら三成が内心苛立っていると、吉継がこちらにやってきた。吉継はいつも通りの物静かさで口を開く。

「堤の件の報告をせねばならんだろう。必要な事項は俺がまとめておくから、後で秀吉様に報告を頼む」

「それは承知しているが…待て吉継、もう行くのか?」

てっきり伊古奈を送ってから仕事に戻ると思っていた三成が尋ねる。吉継は、当然だろう、とでも言いたげに頷くと民衆の輪から外れて町の雑踏の中を歩いていってしまった。
らしくない友の様子に三成は舌打ちをする。それから伊古奈に振り返ると、彼女も吉継の背を目で追っていた。その眼差しは寂しそうで、なんだか居た堪れない。しかし、彼女は三成に気がつくと、すぐにいつもの笑顔を作った。

「私も今日は帰るね。成兄様にお手紙書くの」

堤の件の報告を兄にするらしい。
じゃあね、と伊古奈が軽い足取りで去っていく。吉継のことが気になるのに無理をして明るく振舞っているようだ。気がついていたものの、ひとまず、一人で帰るな、と口を開こうとした時、横から左近が目配せをする。どうやら、吉継の代わりに左近が伊古奈を送るらしい。
三成は寸の間置いたものの、頷いた。左近も吉継と伊古奈のことが気になっていたのだろう。確かに、天邪鬼な自分よりも話を聞き出すには適任か。
三成は一つ頷くと、ひとまず兵達をまとめるべく口を開いた。






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ