飛び出せ!箱入り院生大谷さん
□割り箸上手に割れないの。
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「……。」
「どうした吉継、早く食べないと伸びるぞ、蕎麦が」
「……あー大谷さん、それね、割り箸って言うんだよ。ほら、こうやって割ると箸になんの」
「……そうか」
ぱき。
「……。」
「よ、吉継、上手く割れない時もある。そのうち慣れるさ」
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食堂でも大谷さんの世間知らずっぷりは発揮された。
割り箸の存在を知らなかった大谷さんはきょとんと首を傾げていた。見兼ねて助け船を出してやったものの、初めての割り箸は上手く出来なかったようで変な長さになっていた。このまま蕎麦を食べるのは難しいだろうなあ。割り箸一つでもなかなか苦労するらしい、この箱入り君は。
まあ、今日は私が割ってあげよう。
「はい、どうぞ」
「すまない、ありがとう」
「次は頑張れよ。ほら、本当にのびるよ」
再度蕎麦をすすめる。大谷さんは少しばかりどんぶりを眺めていた。まさかとは思うけど、蕎麦も食ったこと無いとかはないよな。いや、なんかあり得る。だって皿の拭き方すら知らな以下略。
とは思ったものの蕎麦は問題無かった。どうやらメニューで知っているものを頼んだらしい。うん、それがいいよ。最初は。
静かに蕎麦を食べ始めた大谷さんを見つつ、私もオムライスを食べ始める。藤堂は焼き魚定食を食べていた。
「そういえばさ、藤堂と大谷さんはどうやって知り合ったわけ」
大谷さんは病弱であんまり外に出られなかったらしいのに、藤堂とは知り合いである。どこでどうやって会ったと言うんだろう。尋ねると、大谷さんがゆっくりと口を開いた。
「この大学には附属の中等部があるだろう」
「中等部?」
「お前…うちの大学は少等部・中等部、高等部、大学があるだろう。忘れたのか?」
「ああ、中学校のことか。私、大学から受験で入ったから分かんなかったわ。…その中等部の時からのお友達ってことなの?二人は」
「そうだ。俺が病気がちだったからな…担任だった浅井先生が高虎に俺の様子をそれとなく気遣うよう言ったのが始まりだ」
成程、中学時代からの友人ってわけか。聞けば、藤堂が学校と大谷さんとのパイプ役になっていたそうで、なんとなく気も合ったし、友人になったそうな。まあ、なんとなく分かるかも。藤堂はなんか言いたい放題だけど大谷さんはうんうんって聞いてくれそうだもんな。丁度いいんだな、きっと。
オムライス食いながらへえーって言ったら、大谷さんが天城はどうなんだと聞いてきた。
「私らは…どうだっけ?」
「お前…まさか覚えてないとか言うんじゃないだろうな」
「ごめん、まったくその通り」
「……この馬鹿女が」
「あ?んだと馬鹿虎。忘れちまったもんは仕方ないだろが」
「普通忘れないだろあれだけ強烈な馴れ初めがあれば!」
「二人とも、落ち着け」
ばちばちとお互い目で殺そうとしていたら見兼ねた大谷さんが私達にお茶だって言って湯呑を寄越してくれた。ああ、有難う。でもこれ、お湯だね。なんか水差された気分になった。いや、お湯か。お互い冷静になったからまあいいけど。