HikaGO.SU
□いちごみるく
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ちょっとでいいから
かわいいとか
思ってもらいたいって思っちゃうわけで
去年は同じクラスだったけど
今年は隣のクラスになっちゃって
夏休みはもちろん会えなくて
夏休み明けも
なんやかんやで忙しかったみたいで
ゆっくり学校で会える機会がなかった
来年から囲碁のプロになるって話は聞いてて
受験勉強真っ只中の私たちには
将来と進路が決まった和谷が羨ましい気持ちもあった
そりゃそれ以上に
和谷が努力してた事も知ってるから
なんとも言えないけどさ
今までずっと囲碁囲碁言ってた和谷だけど
プロになることが決まって
ちょっと安心したみたいで
これまで付き合いが悪かったけど
周りの誘いにも乗るようになった
もちろん
毎日囲碁の勉強はしてるみたいだけど
合格して少しだけ余裕のできた和谷は
これまで我慢してた娯楽にも
ちょっと手を出し始めて
最近流行ってる漫画を貸して欲しいって
メールをよこしてきた
自分で買いなよ!と思うけど
思うけど
思うけどさ
「サンキュー!」
『ちゃんと全部読んだの?』
「読んだ読んだ!すげェおもしろいな!」
全23巻ある漫画を4冊ずつに分けて貸して
読んだら4冊返してもらって
また続きの4冊を貸して
その繰り返し
『はい、じゃあこれ続きね』
「サンキュー」
貸すのは今日で4回目
16冊貸したから
あと2回でこのやりとりが終わる
この漫画の前にも貸してはいたけど
また次の何かの漫画の話は出てなくて
正直
漫画の貸し借りをすることで
連絡も取れるし
学校で会話もできるから
そのために、私は貸してるわけで
違うクラスになって接点がなくなって
話しかけるネタも
連絡できるネタもなくて
この漫画の貸し借りさえしていれば
メールも
会話もできるわけで
それが今の私の
幸せな時間で
そこで私はいつも
『はい、これ』
少しでも
何かアピールしたくて
いちごみるくのアメも渡してる
「お、いつもありがとな」
『ほんとに食べてるの?』
「え?いつもすぐ食べてるけど」
そうだったんだ
いろんなアメがあるけど
いちごみるくなら
ちょっとでも
かわいく見えるかなって
女の子っぽいかなって
お菓子売り場でいつも探してる
そっか
ちゃんと食べてくれてたんだ
「あ、あとさ」
あげたアメを
目の前で食べながら
「おもしろい漫画
またあったら貸して欲しいんだけど」
そんなのたくさんあるよ
なくても、見つけるよ
少しでも話すきっかけになって
少しでも繋がれるきっかけになるなら
答えは決まってるでしょ
『いいよ』
和谷にとっては
ちょっとした息抜きなんだろうけど
私にとっては
受験勉強よりもがんばりたい時間
『じゃあ今度和谷も
おもしろい漫画とか貸してよ』
「んー、そうだなァ
詰碁の本とかでよければだな」
『なにそれ』
ちょっとでもかわいく見られたい
でも恥ずかしくてできない
いちごみるくくらいの可愛さなら
見せたっていいよね
END