四国四兄弟
□彼はそして愛を失う。
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「わからないんです」
彼女は泣いていた。嘘泣きではなく、ただ、感情に任せて。
他人事なら、きっと適当に慰めて帰していた。けれど、今はできない。踏み込んではいけないところまで、来てしまったから。
「理由なんてわからないけど、好き、なんです」
何度慰めても、何度気の迷いだと拒んでも、彼女は決して諦めようとはしなかった。むしろ以前より強い眼差しを向けてくる。
綺麗な瞳だ。汚れなんて知らない、純粋な。
「……諦めてください」
「っ…!」
「私は教師ですから」
これ以上、楽で残酷な言葉があるだろうか。肩書きなんて本当は何の意味もないとわかっているのに。
彼女がその言葉に従うわけがないということだって、今までで嫌と言うほど知らされている。それでも、それ以外に自分が口に出せる言葉はなかった。
「諦められません、っ…」
悲痛な声には聞こえないふりをして、彼女から目をそらした。何も聞かず、彼女の涙も見なかった―そんな嘘を、自分に認めさせようとした。
「じゃあ…どうして、そんな辛そうな顔するんですか…?」
辛そうな顔。今更指摘されたところで、動揺はしなかった。
確かに今の自分は、彼女と同じ空間にいることを息苦しく感じているから。
「新潟さんには、関係ありませんから」
傷つけるのは承知の上だ。こんな最低な男なんて早く諦めて、彼女が早く去ってくれたらそれでよかった。
「…先生、」
不意に頬に触れた小さな手に、思わず動揺した。誰にも認められることのない感情だと、わかっていたはずだ。彼女も、自分も。
何を思ったのかは、自分でもわからない。頭に残ったのは、彼女への強い感情だけ。折れそうなくらいに細いその体を抱きしめた時、おそらく理性なんて飛んでいた。
「すいません。今だけ、許してください」
せめてこの一瞬で、終わらせたい、なんて。
自分の方がずっと彼女に依存していることには、とっくに気づいていたのに。