四国四兄弟

□サディストの戯言
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 神戸さんは気まぐれです。
 私も人のことは言えませんが、そう思います。
 興味のあることにはとことん首をつっこむのに、全く興味がわかないものにはこれ以上なく素っ気ないのです。
 つい一秒前まで打ちこんでいたことでも、興味を失えばさっさとやめてしまう。そんな彼女だから、どう接したらいいのか正直よくわからないところもあります。


「あの…何ですか?」


 じろじろと遠慮なく見てくる彼女にそう聞くと、「なんもない」と言われましたが、何もないことはないでしょう。
 京都さんに見られるときほど緊張はしませんが、書類に集中しにくいです。
 私の正面のソファで寝転がっている様子は、正直目の毒ですし。個人的な意見としては、もう少しスカートが短いといいんですけど。


「なあ、こっち来て」
「え?」
「早く」


 何となく拒む気も起こらなくて、素直にソファの方へ行くことにしました。やましい気持ちはなかったと断言できます。誓ってもいいくらいです。
 それなのに、いつの間にかソファに押し倒されてました。 いやいやいやいや、おかしいでしょう。ここは普通逆じゃないですか?
 え、いや、えっと、押し倒したかったとかそういうわけじゃなくてものの例えで。


「……あの、私仕事があるので、」


 冗談はやめてください、と言おうとした私の唇を、彼女の指がそっと撫でました。
 冷たくて柔らかいその感触は、私の理性を揺るがすには充分です。でもここで耐えなければ、いろいろと今後まずいことになるような気がします。
 私は無反応で通すことを決めて、彼女が飽きるのを待つことにしました。


「頑固やなあ、意外と」


 ここで彼女の望む通りに行動するのも、なんだか気が進みません。
 さりげなく彼女の肩を押し返したら、「逃げるん?」と挑発的に言われました。
 こんな風に言われるのは(悲しいですが)慣れているので、そこは軽く返します。


「何と言われようと、構いませんから」
「ふうん」


 彼女が私の宣言を聞いているのかいないのかはわかりませんが、気のない答えを返さると少し脱力せずにはいられないです。
 何と言っていいのか悩んでいると、ごく自然な動きでネクタイが外されました。本格的に身の危険を感じます。
 あれ、私は男ですよね? 普通こんな貞操の危機にさらされませんよね? 


「知ってるやろ? うち、諦め悪いねん。嫌がられたら逆にしたくなるわ」
「真性のサディストですね」


 どうにか諦めてもらうしかないのですが、どうにもならないような予感もしています。
 いっそ覚悟を固めた方がいいのかと悩んでいたところに、絶妙のタイミングでドアが開く音が聞こえました。
 ドアを開けた方が救世主なのかそうでないかはわかりませんが、私はそれにわずかな望みをかけます。叶うかどうかは、わかりませんけど。
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