四国四兄弟

□彼のジレンマ
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「で、どこまでいったんだ?」

 新潟さんと、いわゆる「お付き合い」を初めてから数週間経ったある日、神奈川さんが唐突にそう尋ねてきました。
 まさかそのような質問をされるとは思っていませんでしたが、ごまかすのも後々面倒なことになるのはわかりきっているので、ここは素直に答えることにします。

「えっとこの間、に」
「新潟のところに行ってきたとか言ったらぶちのめすぞ」

 はい、きましたフラグ。殴られるフラグですから嬉しくもなんともないですけど。
 神奈川さんがそんなひどい人じゃないと私は知ってますから冗談でしょうね。空気が重いのはあれですよ、暑いからですよ。節電の弊害? そんなかんじでしょう。

「今時そんなベタな返答バラエティ番組でもしねえだろ! そうじゃなくて、男女の付き合いとしてだよ」

 男女の付き合い。
 もちろん、察してました。スルーしてくださることを期待して。現実はそう甘くはないもの。
 いつのことだったか、神奈川さんと千葉さんと埼玉さんに詰め寄られた時のことをちょっと思い出しました。今となってはしょっぱい思い出です。

「そ、そりゃあ、ちゃんと筋は通してますよ。段階を踏んで」
「お前な…付き合いたての男子中学生じゃねえんだから……まさか、手もつないでないとか言わないよな?」
「なんでそこまで聞かれなきゃいけないんですか」

 プライバシーが私に対して保障されるのかはわかりませんが、いくら親しくても答えたくないことくらいはありますし、そもそもこの質問は答えるまでもありませんし。
 そんなの決まってるじゃないですか。

「それもそうだな。悪かったよ。そこまでじれったくはないよな」
「本当に困りますよ。手をつなぐなんて、あと一か月くらいしないと考えられませ…あれ、どうしました神奈川さん?」

 頭を抱えた神奈川さんが「そんなバカなことが」とか「同人誌?とかはあんなにがっつり読んでるくせにお前…」と呟いています。何か声をかけるべきなのやら。
 あと、同人誌は同人誌、現実は現実です。
 そこの境目ははっきりさせるのが私の流儀なもので。

「……あまり求めすぎたら、離れてしまいそうな気がするんです」

 彼女の「好き」が、私のそれと一緒なのかどうか、確信はない。
 全く違うかもしれない。ただの憧れや、あるいは勘違いの可能性だってある。そのずれを意識してしまったら最後、もう一緒にいられないような気がした。

 考えすぎだと笑われたっていい。それが、変えようもない自分の答えだから。

「そんなんじゃ、十年経っても百年経っても、全然変わんねえだろ」
「そうかもしれないですね」

 恥も外聞も全部捨てて、素直に気持ちを伝えるなんてことが、どうしてできるだろう?
 感情を抑えることに慣れてしまったから、違和感さえも覚えない。


「俺は、好きなら好きって態度で表すことも大事だと思うけどな」


 私だって、できるならとっくにしてますよ。自嘲気味に笑っても、神奈川さんは笑うことなく、静かに私を見据えていました。
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