四国四兄弟

□とある日の、仕事場にて
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 なんというかまあ、人間は間違いを一つ二つするのが普通ですよね。
 だから私がやったことも間違いじゃないっていうか。え、間違い? そんなことないでしょその手に持ってる六法全書を下ろしましょうよ神奈川さん。
 平和的に話し合いで解決できますから。
 あれ、どうして千葉さんに耳打ちしてるんですか? 千葉さん? え、夢の国に今後一切来るな? 何ですかその切なすぎる処罰。

 いじめですかそうですかわかりましたよ。私は涙をぐっとこらえて仕事に専念しますから。
 仕事もするなって…はい? しなかったら明日の大事なイベントに行けないんですがあああって何するんですか! 
 その書類がないと私は…!


「やっぱりそうか。『大事なイベント』って言うから何かと思えば」
「俺らを勝手に題材にした十八禁本出してたわけだな」


 出してませんよ、もらっただけです。
 べ、別に私が欲しかったわけじゃないんですけどねっ! 
 気づいたら机にあったというか。ちょっと読みましたけどクオリティは高かったです。


「…………俺ちょっと京都呼んでくる」
「それは勘弁してください!」


 京都さんもこういう(同人誌的な)ものに詳しくないわけじゃないと思うんですが、いかんせん今回の内容が内容なので、知られるのもなんだか今後の関係に影響しそうですし。


「大体私がものすごく読みたかったわけじゃないですよ…それを描いた方からなぜか送られてきてただけであって」
「お前の仕事場に、たまにダンボールの山が届く理由ってそれか」


 ははっ…誰が私の仕事場情報を垂れ流しているのか知りませんが、たまに欲しいジャンルのものがあったりもするので文句も言えないです。
 まあ…ごくたまに私を題材にした薄い本が届く悲しさはプライスレスですけどね。


「とりあえずこれは没収な」
「好きにしてください。でも、これ以上探ったりしないでくださいね」
「さすがに、そのあたりの節度はわきまえてるから安心しろ」


 ああよかった。正月の時のようなことはごめんです。

 ただ、私の葛藤を理解してくれるということは神奈川さんや千葉さんも同じような経験があるんでしょうか。
 気になりましたが、聞ける空気でもないですし、聞いた後が怖いのでやめておきましょう。

 もうそろそろ仕事を再開してもいいか、と書類を手に取った瞬間、仕事場のドアがこれ以上ないくらいの勢いで開きました。


「東京さん、大変です! なぜか今日、半端なくダンボールの山が届いてて…品目に『東京総受アンソロジー』って書いてあるんですけど、これどうしたらいいんですか!?」


 どうしたらいいか、なんて私にわかるわけがありません。それにアンソロジー…ですと!? どこに需要があるんですかこのエコの時代に。どれだけ暇であったとしてもそのような本を買いに来る方がいらっしゃるんですか。

 世の中は摩訶不思議です。

 一番不思議なのは私を題材に選んだ作者の方なのですが。
 神奈川さんとか千葉さんとか広島さんあたりのイケメンにした方が売れるんじゃないですかね。
 いや、身代わり的な意味じゃなくて。

 一般人でかつ、このような薄い本に対する情報に疎そうな受付の方に、私はどんな言葉を返したらいいのかさっぱりわかりませんでした。
 むしろわかったら教えてほしいくらいです。


「えっと、よくわからないんで読んでみたんですけど…その…すいませんでした…」


 どうして謝るんですか、目をそらすんですか、なんだか気まずそうな空気漂わせてるんですか。
 そろそろ仕事場を変える必要があるかもしれませんね…。
 そんなことを考えていたら、パソコンにメール受信の記号が表示されていました。今日は特に仕事関連の期日等はなかったはずで…


『東京さん、私の描いた同人誌届きましたか?』
『次こそは京都さんアンソロジー描きますんで今回は怒らないでくださいね(^_-)-☆』
『もしそこに神奈川さんと千葉さんがいらっしゃったら今後のためにぜひ写メお願いします…/////』


 黙って全件削除してから、私は静かにソファに座りこみました。
 今日はもう、仕事場の片付けでもしておきましょうかね。目の前のダンボールの山も含めて。
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