四国四兄弟
□twitterお題で小説
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この日が来てほしいと思っていたのは確かだった。これでもう、彼について思い悩まずにすむ。不安に感じることなんて、なくなる。
「埼玉」
声をかけると、「ああ、すぐ行きます」とすぐに返事が来る。すぐ、なんて嘘に決まってるけど。
彼の視線の先を見ればわかる。いつだってそう。でも、「あの人が好きなん?」とは聞かない。答えを聞きたくなかったから。
結婚の話を最初に持ち出したのは、彼だ。私のことが好きだからとか、一緒にいたいからだとか、いろいろ言っていたけど、結局のところは早く忘れたかっただけなんだろう。
あの人のことを、全部。
式場までは少し歩かなければならなかった。ドレスの重さは仕方ないにしても、この気持ちの重さはどうにもならないらしい。
「綺麗」
通りすがりの名前も知らない誰かが、私を見てそう言った。綺麗。嬉しいはずなのに、笑顔にはなれない。
一番その言葉を言ってほしかった彼は、私のことなんて見ていなかったから。
「大丈夫ですか」
差し出された彼の手は温かい。大丈夫? そんなの、顔を見れば嫌でもわかるだろう。
今日は最高に幸せな日のはずなのに、どうしようもないくらいに苦しかった。
彼が好き。それはずっと変わらない。
でも、これからこの想いが報われる日が来る未来なんて、私には思い描けなかった。どうしてこんなに苦しい恋を続けているのか、その答えはとうの昔に出ている。
「本当に、奈良さんに似合ってますね。そのドレス」
私を見てくれなくても、鈍感でも、やっぱり彼のことを嫌いになんてなれるわけがない。
「そう……ありがと」
答えながら出そうになる涙を必死にこらえて、精一杯笑った。この痛みに耐えたら、いつかは―と、期待してしまう自分の心は正直だ。
ギリギリの状態で、最後に耐えられなくなるのは、私だろうか、彼だろうか。