四国四兄弟

□嘘の代償
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 そもそも、大阪がこの一言を口に出さなければ良かったのに。

「皆どうせ明日暇やろ? 一緒に遊ぼうやー」

 会議の後で気が立っていたというのもあるにせよ、「どうせ暇やろ」という言い方にかちんと来たのはその場にいた全員一緒だった。
 いつもならフォローしてくれる三重や和歌山は、こんな時に限って先に帰ったようで、京都と滋賀と神戸と奈良はお互いに目配せしあった。そっちがフォローしてや、と。

 最初にその視線に答えて口を開いたのは、神戸だった。

「『どうせ』とは聞き捨てならんなあ」
「じゃあ予定あるん?」
「ありますけど何か?」

 本当は全くなかったものの、売り言葉に買い言葉だ。
 「ふーん」と大阪も頷いて、それ以上はつっこんでこなかった。内心ほっとしていたら、突然大阪が立ちあがった。
 彼女の目がキラキラしているあたりを考慮すると、嫌な予感しかしない。

「その予定って、仕事ちゃうやんな? 日曜日やし」
「……せやな」
「うちがついていったらあかん?」

 ここで「あかん」と言い切ったら、「なんで?」と聞かれるのは必至だ。さすがにその理由まで今ここで捏造できる自信はない。
 かと言って「ええよ」と言ってしまうと、予定という予定が全くないのがバレてしまう。
 どん詰まりの状況で神戸が冷や汗を流していると、滋賀が「空気読んだ方がええで、大阪」とさりげなく言った。

「へ?」
「日曜日に仕事じゃない予定わざわざ入れるなんて、デートに決まってるやん」
「え……ほ、ほんまに!? え、滋賀も京都も奈良も?」

 瞬時に信じた大阪に、神戸は心の中で礼を言いつつ、「当たり前やん」と大嘘をついた。
 京都に思い切り睨まれたが、危ない橋を渡っているのはこっちだって一緒だ。そっちだけ安全地帯にいるのは納得いかない。


「大阪は、予定ないん?」


 奈良のその言葉は大阪のみならず、他の三人の心にもぐっさり刺さった。
 もしかしたら今は来ていないだけで帰って携帯を開いたら誰かから誘いのメールくらい来ているかもしれないし、がっかりするのは早いと虚勢を張ってどうにか正気を保っているレベルだ。
 できれば早くこの話を終わらせて、即行で帰りたい。


「…………嘘や」


 大阪の小さな呟きが、会議室に響く。

「何が?」
「デートとか。今までそんなん一言も言ってへんかったのに、おかしいやろ。絶対嘘」

 やはりそこまで簡単にだませないか、と滋賀が軽くため息をついた。でも、ここまで来たらこっちだって嘘を通したい。

「そこまで疑うんやったら、ついてきたらええやん」

 『全然良くないねんけどこっちは』『墓穴掘らんとってほしいわ』と言いたげな神戸や京都からの視線は無視して、「それでええ?」と念押しするように大阪に聞く。


「……場所は?」
「また後でメールするから」
「わかった。そろそろ戻らな上から怒られるし、うちはもう帰るわ」


 案外あっさり帰り支度を終わらせて会議場を出ていく大阪を尻目に、四人は大きなため息をついた。

 明日暇で、なおかつデートの相手として不審に思われない人なんて、そうそう見つからなさそうだが―もう言ってしまったのだから仕方ない。
 暇でいろ暇でいろと念じつつ、四人とも勘で選んだ相手に電話をかける作業にとりかかる。どうか快く受けてくれますように。
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