四国四兄弟
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泣いたら許されるとか、そんな自分勝手な考えに同調する気はさらさらない。
私が泣きたかったから泣いただけなのだから。
ただ、ちょっとだけばつの悪い顔をしていた彼のことを思い出すとなんだかもやもやした。
別にあんたのせいじゃない、とでも弁明しておいた方がまだマシだったか。
「はあ」
外の雨を見ていると、外に出るのも億劫になってくる。かと言って、このまま彼を追いかけていかないのも無責任だ。
机に置いてある折りたたみ傘は、私に早く行けと急かしていた。
「…………」
じっと見てみる。特に変わったところはない、普通の傘だ。彼のものだということ以外は。
これを持っていない彼は、今頃どうしているだろう。雨に降られてびしょ濡れになっているかもしれない。後で嫌味の一つくらい言ってくる可能性もある。
それよりも怖かったのは、このまま彼が帰ってこないことだった。
今から走ったら間に合うかもしれない。でも、もし間に合わなかったら? 彼の姿が見つからなかったら? 私は、きっと一歩も動けなくなる。
「……」
震える手で、それをつかんだ。素直に受け取ってはくれないだろうけど、彼がこれを必要としているのは確かなのだから。
何を言えばいいかなんてわからない。口を開いたら喧嘩の続きをしてしまうのは間違いない。
だから、一言だけでいい。「ごめん」、それだけ。それ以上何も言わなくたって、おそらく彼は怒らない。どうせわかってるはずだから。
結局私と彼は似た者同士で、意地を張る癖は治しようもないってこと。