MM連載中の話以前の話です。
「ねぇアリス、そろそろ僕の首を戻してくれないかい」
それは一連の出来事が終わって3日経ったある日の午後。
スポーツバックの中に押し込んで放置しておいた首だけのチェシャ猫がぽつりと呟いた。
「え、首って戻せるもんなの!?」
「勿論さ。首は切れるし戻せるものだよ」
「そうなんだ‥でも私直し方知らないよ?」
生憎、色々教えてくれるアリスは今休息中らしく声は聞こえない。
チェシャ猫はにんまり顔のまま暫く黙ると、ごろりと転がってバックから出てきた。正直気持ち悪い光景だ。
「なら、アリスが起きたら変わってくれるかい?アリスならできるからね」
「いいけど‥そもそもどうやって直すの?」
「…それは言えないね」
「は?」
間を開けてそう言うチェシャ猫。怪しい。明らかに何かおかしい。
きっと私が嫌がることなんだ。
それとも私が聞くとまずいこと、とか?
(アリス、アリス)
(……)
(お願い、起きてアリス!)
(…ん、あら‥どうしたの?私達のアリス)
懸命に心に問い掛けると、ややあってアリスが目を覚した。
ほっと息を吐き、アリスに事の次第を説明すると、「あぁそれね‥」と何やら気になる言い方で返してきた。
(ねぇ、どうやって戻すの?チェシャ猫が私にさせなかったのはどうして?)
(させなかったのではなくて、貴女には出来ないのよ、私達のアリス。貴女はこちらの世界の存在だから、創造主だとしても存在自体への関与はできないの)
(そうなんだ‥でもどうしてチェシャ猫は私に直し方を教えてくれなかったのかな)
(…それは多分ね、)
言いにくそうなアリスの口から出たその方法。
それを聞いた瞬間、亜莉子は立ち上がって部屋の端でごろごろと転がるチェシャ猫の首を掴んでスポーツバックに押し入れた。
「何をするんだいアリス」
「うるさい!私が聞いたら絶対にさせないと思って言わなかったんでしょ?その通りよ、絶対にさせないから!」
「そうしたら僕はずっとこのままになってしまうよ」
「あらいいじゃない、その姿でずっといたら?体も一人旅を楽しんでるわよ」
『アリス、それじゃチェシャ猫が可哀相よ?』
「…っ、だって許せないんだもの、いくら直す為でもアリスにキスしてもらうなんて……私は鏡ごしにだってしたことないのにっ」
それは彼女の執着心。
「‥口にじゃなくて切れた箇所だって言わなかったのかい?」
「ちゃんと言ったのだけれど聞いてくれなかったのよ」
「‥どうせ聞いてたけどそれでも嫌だったって事だろうね」
「あら、そんなことないわよ。アリスはいい子だもの、ちゃんと言えばわかってくれるわ」
「(……)」