小説1

□純愛譚
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屋上につくと柵に手を掛けて空を見上げた。
曇り空。灰色で憂鬱。
無意識に溜め息を吐くと、ポケットでくしゃっと潰れた煙草を取り出した。

カチッ

百円ライターで火をつける。
風で揺られた炎で指が少し熱かった。

「はぁ…」

ぁ、また溜め息吐いちまったぞ、と。

何かに疲れた。
脳味噌の裏っ側に張り付いた顔。
眉間に皺を寄せたルーファウス。
いつもだ。いつもそこにいる。
表に出てこないでじっとりと隠れて俺を見てる。
頭からこびりついて離れない。

「一体どうしたってんだ…」

三度目の溜め息と共に洩れた声。

あー苛々する。
あんたも、みんなみたいに俺様を特別扱いしろよ。
見下してんじゃねーよ。
偉そうなんだよクソ。

「眉間に、皺が寄ってるぞ」

頭を抱えて苛々を抑えようとしてたら、

「レノ」

その苛々の原因があっちから歩いてきた。

「…ルーファウス」

「社長と呼べ」

金糸の髪を風に好きに触らせて、白いスーツのその人は、軽やかに現れた。

「…なんか用スか、と」

「いいや、君はよく屋上に来るのか?」

「別に」

声のトーンがいつもより低くて、刺々しい言葉となって発せられた。
早くここを去ってほしいと思う、しかし。

 
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